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【MLB】2024年のチーム三振数は1試合当たり平均8.33個と高止まり

 

生体力学の研究が進み、テクノロジーを生かし、速いボールを投げられ、切れ味鋭い変化球を習得しやすくなった中で、打者はそこに追いつけずに三振数が増えている現状がある[写真は前田健太]


 MLBの打撃成績が全体的に上がっていない。2024年シーズンも折り返し点を過ぎたが、7月2日を終えた時点で30球団の打率.242は1968年の.237以来の低い数字だ。チームの三振数も1試合当たり平均8.33個と相変わらず多い。

 ちなみに1試合当たり平均8個を超えたのは16年、7個を超えたのは10年、6個を超えたのは94年だった。1952年以降は長く、平均4個台と5個台を行ったり来たりしていたのだが、この30年間ですっかり高止まりしている。

 問題はこの傾向がMLBの娯楽としての価値を損なっていること。今や打席の25%近くが三振。23年からの大掛かりなルール変更でリーダーシップを発揮したセオ・エプスタイン氏は「ゲームは、プレートでのほぼ4分の1が三振で終わるように設計されたわけではない」と話している。野球のボールはバスケットやフットボールに比べて、ずっと小さいが、おかげで遠くまで飛んだり、目の覚めるようなスピードだったり、イレギュラーしたり、多彩な動き方をすることがほかのスポーツにない魅力だった。

 空振りや三振も、魅力の一つではあるが、25%は多過ぎる。なぜこんなに増えたかというと、多くの人が指摘するように、生体力学の研究が進み、年々速球のスピードが上がり、テクノロジーを生かし、切れ味鋭い変化球を習得しやすくなったこと。三振を奪う投手の能力が飛躍的に上がったのだ。

 ちなみに筆者が本格的にメジャー・リーグの取材を始めたのは97年だが、当時はまだ監督やコーチの考え方は、投手は三振を取ることにこだわり過ぎてはいけないというもの。ランディ・ジョンソンやカート・シリングのような体が大きく球が速い投手は特別。投手はコーナーを突き、早いカウントで打たせて取り、なるべく長いイニングを投げることがよいとされていた。

 しかし今では、みんなが三振を目指す。ゆえに長いイニングは投げられないが、チームもそれでよしという考え。筆者がその変化を強く感じたのはドジャース時代の前田健太投手と話したときだ。彼は「バットに当てさせないのが一番。バットに当たれば何かが起きる。こっちの選手はとにかく振りも強いしパワーもあるし。全然芯じゃなくても強い打球が飛ぶ」と話していた。

 ご存じのように前田投手は身長185cmで特に大きくはないし、直球の平均速度も91マイル前後だ。一方でコントロールがよく守備もうまいため、90年代にメジャーに来ていたら打たせて取るように首脳陣に言われ本人もそうしただろう。

 しかし彼は1試合当たりの三振数が平均8個になった2016年にやって来た。前田は三振を取る投手へとアジャストし、メジャー3年目の18年、スライダーの空振り率は44%、スプリットは46.8%、9イニング平均11個の三振を奪った。前田は23年、6勝8敗、防御率4.23の成績だったが、それでも昨オフ、2年総額2400万ドルという良い契約を勝ち取った。23年も9イニング平均10.1個の三振を奪えていたからだ。

 MLBは現在、野球を三振が多過ぎないゲームに戻そうとしている。しかし、それは簡単ではない。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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