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【MLB】「先発投手は6イニングを投げねばならない」 抜本的なルール変更検討の狙いとは

 

野手から転向し、メジャー・デビューを果たしたライアン。4試合目で肘を痛めてトミー・ジョン手術を受けた。MLBが投手のルールを改正することで、投手のケガを少なくし、面白い野球が見られる可能性がある


 スポーツ専門局「ESPN」電子版のジェシー・ロジャース記者が、MLBが新たに極端なルール変更を検討していると報じた。ロブ・マンフレッドMLBコミッショナーは、野球ファンのためにもチームの顔であるべき先発投手がマウンドに長くとどまって、試合の後半まで投げ続けることを望んでいる。加えて肩肘を痛め、手術のために長期離脱するケースを減らすことも目指している。

 そして近年の試合では、結果が三振となることが多過ぎることについても、バランスを取り戻したいと願っている。そのための極端な変更とは先発投手がマウンドに上がるたびに少なくとも6イニングを投げなければならないというものだ。

 ESPNの集計したデータによると、2014年には先発投手が1試合平均で約6イニング(5.97イニング)を投げていたが、今季は5.25イニング。育成目的の3Aでは4.3イニングにまで減少している。とはいえ、打ち込まれたり、ケガをした投手に無理やり6回を投げさせるわけにはいかない。議論には、どういった例外規定を設けるかも含まれており、早い交代の条件として、すでに100球を投げている、4点以上の自責点、ケガをした(試合後負傷者リストに入れねばならない)などが考えられている。

 これが実行に移されれば、チームは投手の育成から考え直さねばならない。近年は、長いイニングはいいから、先発投手は1球1球力いっぱい投げて、三振を取ることを求められる。アナリティックが導き出した、試合に勝つための最適解で、あとはリリーフ投手の継投で、やはり三振を取りまくる。

 筆者はドジャースの若手投手、リバー・ライアンを取材した。野手から投手へ転向し、テクノロジーを利用したピッチデザインのおかげで、2年ちょっとで、98マイルの剛速球とキレ味鋭い変化球を投げる投手に成長した。一方でマイナーでは1試合75球以上を投げたことがなく、最長でも5イニングだった。そしてメジャー・デビュー、20.1イニングで18奪三振、防御率1.33の活躍だったが、4試合目で右肘損傷、シーズン終了となっている。

 筆者は彼の4試合をすべて取材していたが、現在のMLBは正しくないことを若手に強いていると感じた。6イニングを投げなければならないというルールにすれば、投手は打たせて取るなど、多彩な投球スタイルを覚えざるを得ない。時に加減して投げることで、肩肘のケガが減少する。

 そもそも筆者が本格的にメジャー・リーグの取材を始めた1997年当時、監督やコーチは、投手は三振を取ることにこだわってはならない、ランディ・ジョンソンのような投手は特別で、コーナーを突き、早いカウントで打たせて取り、なるべく長いイニングを投げるのが良いとされていた。そこに戻るべきだと思う。

 一方で、打者にとってはバットに当てやすくなり、試合の中でのアクションも増えるため、ファンの娯楽性が増す。打たせて取る野球ならではの面白さ、醍醐味を復活させるべきだと信じる。ちなみにこのアイデアはまだ検討段階で、マイナーでテストをするとしても、ピッチクロック導入のときと同様、たっぷり時間をかけて、是非を見極めていく方針だ。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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メジャーから発信! プロフェッショナル・アイデアの考察[文=奥田秀樹]

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