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【MLB】誇り高きパイオニアが静かにこの世を去る 多くの同郷人を勇気づけ、球場に集めた

 

投球時に空を見上げる独特のフォームで通算173勝を挙げたバレンズエラは、当時アメリカで低賃金で働かされていたメキシコや中南米からの移民の人たちを勇気づけた。英雄の活躍を見に行く人たちは「フェルナンドマニア」と呼ばれ、社会現象となった


 フェルナンド・バレンズエラが10月22日、63歳で亡くなった。2024年もドジャースのスペイン語ラジオ放送の仕事を続けていたため、球場のプレスボックスの後ろにある食堂で毎日のように見かけたが、別人のようにすっかりやせてしまっていた。しかしながら、健康状態についての情報はなかった。本人が同情されることを望まなかったからだろう。

 メキシコ出身、人口500人の小さな村から来たぽっちゃりとした20歳の若者が、独特の投球フォームとスクリューボールでメジャーを席捲、サイ・ヤング賞と新人王を獲得し、ワールド・シリーズでもヤンキース相手に完投、チームを16年ぶりの世界一に導いたのは1981年のこと。

 メキシコからの移民たちは、長い間ロサンゼルス周辺において低賃金労働者として扱われてきたが、そんなヒスパニック系でもアメリカでスーパースターになれることを示し、多くの人々を勇気づけた。メキシコ、中米、南米から来た野球にまったく関心がなかった人々も突然野球ファンになり、球場に集まる。彼らは「フェルナンドマニア」と呼ばれ、ラテン系が占める球場の割合は8〜10%から急増し、今では42〜46%を占めている。MLBの長い歴史の中でも新しいファンをこれほど多く生み出した選手はほかにいないのかもしれない。

 思い出すのは2009年、長いインタビューをさせてもらったこと。若いころのニックネームが「EL TORO(雄牛)」でタフな投手だった。1シーズンに285イニング投げたり、20完投したりしていた。

「先発で5、6イニングしか投げないのは、ゴルフでハーフ(9ホール)しか回らないようなもの。打者と違って、先発投手は5日に1回しか出番がこない。にもかかわらず早い回で降板したら、勝ちも負けもつかず、また次の試合まで待たねばならない。これは面白くない。投手の一番の喜びは試合に勝つこと。だから投げる試合は長くマウンドに立ちたい」

 さらに投球動作の途中に一瞬空を見上げているかのような独特のワインドアップについては「意識してそうなったのではなく自然に身についた。実際、ほかの人に言われるまで気がつかず、ビデオを見たら、確かに一瞬上を見ている。ああ本当だなと。でもそれが自分にとっては普通なんだ」と笑っていた。

 残念だなと思うのは彼が野球殿堂入りを果たせなかったこと。本人は「あいにく殿堂入りでは数字が大事。投票権を持つ人たちは一番に数字を調べるし、私は十分ではなかった(173勝153敗)。しかし、そもそも『HALL OF FAME』のFAMEは『数字』ではなく、『評判とか名声』の意味のはず。私見だが、野球界の発展に寄与した選手はもっと考慮されていい。そもそも数字は必ずしも選手のパフォーマンスを正確に反映しない。野球はチームスポーツ、いくら良いピッチングをしても、相手投手がもっと良いピッチングをすれば勝ち星はつかないし、援護がなければ勝てない。数字にこだわり過ぎるのはどうかと思う」と話していた。誇り高きパイオニアは静かにこの世を去っている。合掌。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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メジャーから発信! プロフェッショナル・アイデアの考察[文=奥田秀樹]

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