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「ワールド・シリーズ制覇には、安定して地区優勝を狙えるチームにすることだ」と発言したカブスのオーナーであるトム・リケッツ氏。5000万ドル以上の余剰資金がある中で、今オフの目立った補強はトレードでのカイル・タッカーのみ。カブスファンはこの件に限らず、球団が積極的でないことに物足りなさを感じている
ドジャースがリリーフ左腕タナー・スコットと4年総額7200万ドル(約113億円)の契約を結んだ。スコットは昨季マーリンズとパドレスで72試合に登板し、9勝6敗、22セーブ、防御率1.75の好成績。ポストシーズンではドジャースとの地区シリーズで3試合に登板して無失点、5つの三振を奪った。そのうち4つは
大谷翔平からだった。
そのスコットに対し、カブスも積極的に獲得に動いていた。報道によると4年総額6600万ドルを提示したが、ドジャースに敗れたという。大谷キラーがカブスにいれば、3月の東京シリーズの展開も変わったものになるが、競り負けている。
カブスファンはこの件に限らず、球団が補強に積極的でないと不満を抱いている。大都市シカゴの人気球団で資金力はあるはずなのに、ドジャースやメッツとは比較にもならない。それに対しトム・リケッツオーナーは先日、地元のラジオ番組で「ファンはわれわれがドジャースやメッツと同じ資金を持っていて、それを保有していると思っているかもしれないが、それは誤解だ。われわれは毎年、損益分岐点(収益と費用のバランスが取れるポイント)を目指しているだけ」と説明した。
現在、カブスの2025年の年俸総額はデータサイト「ファングラフス」によると約1億8000万ドルでMLB13位。しかし、リケッツオーナーは地元紙の記者に、25年の年俸総額がぜいたく税の基準額である2億4100万ドルに近づくことを見込んでいると明かし、補強資金は残っているとした。まだ5000万ドル以上も使える。しかしながらスコットについては競り負け、アレックス・ブレグマン三塁手のような大物に動く気配はなく、このオフの大型補強はトレードでアストロズから獲得したカイル・タッカー外野手だけである。
ドジャースは積極的な補強を続け、25年の総年俸は約3億6900万ドルに達した。現時点でカブスの年俸総額はその半分なのである。そして20年のドラフト1巡(全体19番目)、22歳のピート・クロウ=アームストロング外野手、23年のドラフト1巡(全体13番目)、23歳のマット・ショー内野手ら若手の成長に期待する。クロウ=アームストロングは守備と走塁はメジャーでもトップクラスだが、打撃はまだまだ。ショーはメジャー経験がない。
リケッツオーナーは年俸総額でトップクラスにならなくても、安定して優勝争いができるチームをつくりたいと話す。「ワールド・シリーズに出て勝つ方法は、できるだけ多くプレーオフに進出すること。それができればチャンスは出てくる。目標は常に地区優勝を狙えるチームだ」と言う。
しかし23年は地区首位に9ゲーム差、24年は10ゲーム差と大きく水をあけられた。この差を埋めるにはもっと補強すべしとファンが思うのは当然だろう。ちなみにスポーツ専門局「ESPN」電子版が1月に発表した25年度の30球団パワーランキングでは1位ドジャースに対して、カブスは12位である。
今永昇太、
鈴木誠也が投打の要でチームを牽引するが、ドジャースと戦うには明らかに駒不足なのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images