
23年にパイレーツからドラフト1位[全体1位]指名されると、翌年には新人王を獲得したスキーンズ。100マイルを超えるフォーシームを武器に三振を量産した。チームの弱点は打撃だが、補強したのは峠を越したベテランのみ。オーナーの純資産が多いにもかかわらず、積極的な補強をしない姿にファンは怒りの声を上げている
パイレーツの剛腕ポール・スキーンズが新球種の取得を目指している。100マイル超のフォーシームと、スプリンクラー(スプリッターとシンカーを組み合わせた球種)を武器にしてきたが、新たにカッターとツーシームの習得を試みている。「打者に迷いを生じさせる球を増やそうとしている」と説明。
昨季133イニングを投げ170奪三振だったが、より効率的に「ストライク3」に到達する方法を模索する。順調にいけば、今年は200奪三振を軽く超え、サイ・ヤング賞を狙うことになるのだろう。今、MLBで最も見たい投手の一人であることは間違いない。
もったいないのはそのパイレーツがオフに積極的な補強をしなかったことだ。チームにはほかにもジャレッド・
ジョーンズやミッチ・
ケラーといった若手の好投手がいる。トッププロスペクトのババ・チャンドラーもいる。パイレーツは昨シーズン、前半戦はまずまずだったが、8月に8勝19敗と失速しナ・リーグのワイルドカード争いから脱落。最終的には地区最下位となり、9年連続プレーオフ進出を逃した。
そこで得点力が30球団中24位だった打線を改善すべきなのだが、トレードで獲得したのは
スペンサー・ホーウィッツ内野手だけ。昨季は12本塁打で長打率.433は、ゲームを変えるようなパワーではない。ほかに、アンドリュー・マッカチェンと1年500万ドル、トミー・ファムと1年402.5万ドル、アダム・フレイジャーと1年152.5万ドルで契約したが、峠を越したベテランばかりだ。
MLBは収益が増えている。昨シーズン121億ドルと過去最高の収益を記録した。パイレーツはスモールマーケットのチームだが収益分配制度で分け前にあずかれる。昨季の年俸総額約8400万ドルはMLB全体で2番目と低かったが、そこから大きく増やすべきだ。ところがなんと5%の削減。地元ファンは「ボブ・ナティングオーナーは勝つことに関心があるのか?」と真剣に怒っている。
近年パイレーツは弱かったからか、22年は観客動員で126万人(27位)、23年は163万人(25位)、24年は172万人(25位)だった。スキーンズが調停権を得るまでにあと2年、FA権まであと5年ある。彼がいるうちに優勝を狙うべきだろう。
今から10年前、3年連続でポストシーズンに進出したころは、250万人近いファンが球場に詰めかけた。地元ファンのために今こそ投資すべきだ。ナッティングオーナーの純資産は数十億ドルと言われている。それにもかかわらず、すべてにおいてケチっている。ドジャースは巨額の補強で「悪の帝国」呼ばわりされているが、勝とうとしないオーナーのほうが明らかに問題である。
1月、ピッツバーグでファン感謝イベントが開催されたが、地元ファンは「ナッティングはチームを売却すべきだ」と怒りの声を上げた。これに対し
トラヴィス・ウィリアムズCEOは「私たちは勝利に完全にコミットしている。ただ、どうやって勝つかを見つけ出す必要がある」と答えた。説得力がない説明なのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images