
オープン戦で試しているロボット審判をうまく活用したヤンキースのエベルソン・ペレイラ外野手。6回二死のフルカウントから三振でチェンジだったはずが、リクエストで四球に判定が変わる。その後ヤンキースは、3点を奪った。ロボット審判の導入で試合が大きく変わるかもしれない
今年のMLBのオープン戦では、ロボット審判のテストが進んでいる。ご存じのようにほとんどの投球は従来どおり人間の審判が判定するが、チームは2回までチャレンジでき、ビデオ判定を利用できる。ビデオ判定は2008年8月に初めて本塁打で導入され、14年には多くの判定に対して広く適用されるようになった。
そしていよいよストライクとボールである。2月22日のヤンキース対ブルージェイズ戦では、1球の判定が変わることで、イニング全体が大きく変わった。ヤンキースのエベルソン・ペレイラは、フルカウントからの最後の投球で三振と判定され、これが6回表の3つ目のアウトになるはずだったが、チャレンジを申し立てた結果、判定が変更、ペレイラは一塁に出塁した。その直後、
スペンサー・
ジョーンズが2ランホームランを放ち、さらにイスマエル・ムンギアがタイムリー三塁打を放って追加点を奪った。0対4で負けていた試合が、3対4と接戦になっている。「チャレンジするタイミングが完璧だった。ペレイラは自信を持って正しい判断を下したと思う」とヤンキースのアーロン・ブーン監督は評価している。
一方で今年からブルージェイズで投げるベテランのマックス・シャーザー投手は反対派。25日、カージナルス相手に先発し2イニング、4奪三振と上々の内容だったが、2度のチャレンジでストライクがボールに覆された。登板後、「メジャーの審判は優秀なんだ。彼らはとてもよくやっている。ストライクがボールになり、ボールがストライクになるけど、結局プラスマイナスゼロになるだけ。それで本当に試合が良くなるのか? 俺はそうは思わない」と不要論を唱える。
このシステム、26年の公式戦から導入される可能性があるが、まだ正式には決まっていない。MLBは2年後に訪れる次の労使交渉の混乱を乗り越えるまで、大きな変化の導入を見合わせるかもしれない。しかしながら、近い将来の導入は避けられないようで、ゆえにいきなり導入するのではなく、選手からのフィードバックを得るためにテストをしている。ドジャースの
タイラー・グラスノー投手は肯定派。「ゲームそのものが変わるわけじゃないからね。ピッチクロックとは違う。気に入らない判定があったらチャレンジできるってことだから」と言う。
興味深いのは試合に勝つための使用方法だ。チャレンジ回数は成功すれば維持されるものの、1試合2回まで。しかもチャレンジできるのは打者、投手、捕手のいずれかで1~2秒以内に迅速に行わなければならない。感情的になった選手が無駄に使うのも防がねばならない。ドジャースの
ウィル・スミス捕手は「フロントオフィスが試合のどのタイミングで使うのが最適かを考えるだろうし、打者や捕手の意見も反映されると思う」と言う。例えばバッテリーでは投手ではなくより冷静である捕手にチャレンジ権を委ねるかもしれない。1~2秒以内でベンチにお伺いを立てることもできないから、三振に絡む判定しかチャレンジしないなど事前に決めておく必要もある。新たな戦略が話し合われる。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images