
現役時代は攻守でレベルの高い捕手として名を馳せていたポージー。2021年に引退後、共同オーナーとしてジャイアンツに関わり、今季から編成本部長に就任。現役時代同様に高い人間力でチーム内の調整を期待されている
ナ・リーグ西地区ではドジャースの地区優勝は間違いないと予想されており、これに次ぐダイヤモンドバックスがワイルドカードでポストシーズン進出、ひょっとしたらパドレスもとなっている。そんな中、個人的に注目するのが予想では地区4位のジャイアンツだ。
ジャイアンツは、昔気質の編成本部長ブライアン・サビーンがつくったチームで、2010年から14年の5年間で3度世界一に輝いた。しかし、ドジャースがアナリティックに長けたアンドリュー・フリードマン編成本部長を採用してからは、圧倒され、フリードマンの部下だったファーハン・ザイディGMをジャイアンツは引き抜いた。
しかし、それもうまく行かず、昨季80勝82敗。3度世界一だったころの看板選手だったバスター・ポージー元捕手にチームづくりを任せた。ポージーはチームのアイデンティティを見直している。オラクルパークという球場の特性を生かさねばならない。球場が広く、風が強く、打者に不利なため、あまり点は入らない。基本的に接戦が多いから、投手力と守備力を重視し、ミスを避け、細かいプレーの重要性を理解することが不可欠になる。もちろん今の時代、アナリティックを捨てることはない。試合中の戦術や起用法は、今後もデータを参考にする。
その一方で、ポージーは自らの役割をフロントオフィス、アナリティック部門、選手たちの間でコミュニケーションを調整する人間的な役割だとしている。そして人間力を再建のカギとする。具体的にはコミュニケーション能力、共感力、自己成長の意欲、柔軟性と適応力、問題解決能力などだ。まずは、ゴールドグラブ賞受賞のパトリック・
ベイリー捕手が真のリーダーとなる。リーグ随一のフレーミング技術を持ち、どんな体勢や腕の角度からでも素早く送球できるが、ポージーはそれ以上を求める。
「本当に大事なのは、投手陣をリードすること。試合の前後に交わす会話だったり、ゲームの流れを感じ取る能力だったり。優れたキャッチャーは、試合の流れがどう変わっているかを察知し、それに応じて行動することができる」
投手陣では42歳のジャスティン・バーランダーを獲得した。昨季の首や肩のトラブルも克服し、再び本調子を取り戻しつつある。通算262勝だが、300勝を目指す。その存在が若手投手の手本になる。「もし彼が素晴らしい結果を出せば、それだけでメンターの役割を果たす」とポージー。さらにバリー・ボンズが若手打者の指導をしている。キャンプ地で背番号25のユニフォームを着て指導を行った。「バッティングケージに座って選手たちと話す。ただそれだけさ。俺はウィリー(ウィリー・メイズ)と同じ。野球の百科事典であり、辞書みたいなもの。使いたければ、使えばいい」とボンズは語る。
戦力的にはドジャースにはかなわない。
大谷翔平のような全盛期のスーパースターもいない。それでも人間力を生かして接戦に強いチームを作る。昨季はドジャース戦4勝9敗だった。果たしてどれだけ食い下がれるか、脅かす存在になれるのか?
文=奥田秀樹 写真=Getty Images