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【MLB】バットスピードを上げて好結果 注目される打者育成のパラダイムシフト

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レッドソックスのキャンベル。バットスピードの向上によって、2023年から長打力が飛躍的にアップ。メジャー・デビュー前の今年3月25日に8年総額6000万ドルの契約を勝ち取った。新しい育成法で力をつけていく打者がどんな成績を残すのか楽しみだ


 先週は「魚雷バット」について書いたが、打撃成績向上のカギとして、同じく現場レベルで注目を集めているのはバットスピードだ。

 ヤンキースのベン・ライスは、2021年のドラフト12巡目の選手。昨年メジャー・デビューしたものの、打率.171、長打率.349、OPS.613と厳しい成績。しかしオフの間に体を鍛え、バットスピードの平均が大きく向上。前年の71.4マイルから74.0マイルにまで伸びた。

 MLB全体の平均は71.5マイルで、スタットキャストは75マイル以上を「速いスイング」と定義している。つまり、ライスは「平均」から「速い」へと進化した。その成果は今季の成績に表れている。4月8日時点で打率.323、長打率.645、OPSは1.092である。

 また、平均打球速度も96.6マイルで、リーグ7位にランクインしている。もちろん、バットスピードが上がればいいという単純な話ではない。スイングが速くなることで、振りが大きくなり過ぎてコンタクト精度が落ちるリスクもある。振りが大きくなり過ぎず速度だけを上げることが求められる。まだ開幕から9試合、34打席のサンプルに過ぎないが、ここまでは結果が出ている。

 レッドソックスのクリスチャン・キャンベルも、バットスピードの向上によって成長を遂げた好例だ。23年のドラフト4巡目で指名されたキャンベルは、優れた選球眼と確かなコンタクト能力を持つものの、長打力に欠けていた。そのため、球団の有望株ランキングでもトップ20圏外だった。

 そこで球団は重さの異なるバットを使わせてスイングスピードを上げるとともに、打球をより空中に飛ばすようスイング軌道を調整。さらにアプローチも「当てにいく打撃」から「ダメージを与える打撃」へと転換させた。

 その結果、空振り率は上昇したものの、長打力は飛躍的にアップ。23年は2Aで56試合に出場してOPS1.045、1Aでも40試合でOPS.898を記録。そして迎えた今季、開幕ロースターに名を連ね、最初の10試合でOPS1.143とインパクトあるスタートを切った。レッドソックスはさっそく8年総額6000万ドルの長期契約を与えている。

 興味深いのは、10年前にMLBで始まった投手育成のパラダイムシフトが、いま打者にも波及し始めていること。かつては、速球派の投手にコントロールを教えるというのが育成の常識だった。しかし近年では、ピッチデザインの考え方が浸透し、もともと制球力に優れた投手に球速をつける手法も加わった。

 打撃の世界でも似たような転換が起きる。優れた選球眼とコンタクト能力を持つ打者を鍛え、より強くスイングできるようにする。エンゼルスのローガン・オホッピーもその一例。速度は昨季から2マイル以上も向上し、今季は7試合で5本塁打、OPSは1.229と絶好調だ。

 もちろん、バットスピードが速いほうが有利だということは、これまでも経験則として知られていた。しかし近年は、科学的なデータが整備され、スイングの長さや軌道、タイミングまでも含めた精緻な調整が可能になった。これから長いシーズンを通じて、こうした新しい育成法で力をつけた打者たちがどんな成績に落ち着くのか、結果が非常に楽しみだ。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images

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メジャーから発信! プロフェッショナル・アイデアの考察[文=奥田秀樹]

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