
身長201cmと恵まれた身体能力が魅力のクルーズ。高い運動神経を生かした今まで見たことのない圧倒的なプレーで観客の視線を集める一方で、初歩的なミスをしてしまう。メンタル面を克服し、スター候補からスーパースターへと駆け上がりたい
パイレーツの
オニール・クルーズはスタットキャスト時代の申し子だ。ドミニカ共和国出身の右投げ左打ち。201cm、109kgのサイズで、打球速度は驚異的に速い。足も速く、肩も強い。今季のスイング速度は平均78.1マイルで全体2位、75マイル以上の速いスイングが73%(全体5位)で、目いっぱい振り続ける。今季の最大速度の打球は118マイルで2位、最速の送球速度は103.3マイルでこれもまた2位である。足の速さも平均29フィート/秒で全体26位とトップレベルだ。
良い意味でも悪い意味でも、試合中に、クルーズから目を離すことはできない。身体能力を生かして、打席や送球時に今まで見たことのないプレーをするかもしれないからだ。その一方でミスも少なくない。打撃ではコンタクト率と選球眼はいまひとつで、ひどい空振りを喫してしまう。守備では2024年シーズンの終盤、遊撃手から中堅手にコンバートされたが、メジャー最下位クラスのセンターの評価。打球への反応、ルートの取り方、加速などすべて良くない。コンバート時は、卓越した身体能力がカバーすると期待されたが、そう簡単ではない。
元は15年にドジャースが契約した選手。17年の夏に左のベテランリリーバーを必要としたため、パイレーツのトニー・ワトソンと交換した。19年11月に40人枠に入り、21年10月にメジャー・デビュー。22年に正遊撃手となり、87試合で17本塁打の活躍。しかしながら翌23年はケガで9試合に出場しただけだった。24年は146試合に出て、21本塁打、22盗塁、OPSは.773だった。
26歳の今年、期待されるのは恵まれた身体能力を生かしてMLBを代表するスーパースターになること。具体的には打球角度を改善し、ボール球に手を出す割合(チェイス率)を抑えられれば本塁打数は20~25本ではなく、50本塁打レベルの打者になれる。そして24年の平均打球角度は9.8度だったが、25年はここまで13.7度である。チェイス率も24年の31.7%から今年は25.4%と改善されている。
パイレーツは開幕から三番で起用してきたが、先日から一番に上げた。大きな理由はほかに7人の一番打者を試したが合計成績は打率.127、出塁率.244と惨憺たるものだったから。クルーズの今季は20試合で13個と四球を選べており、盗塁は10回走ってすべて成功。そして何より打撃のポテンシャルが高い。大谷のような一番になれるかもしれない。
ただし、対左投手の打率は1割である。守備についても今季の外野手の中で最多タイの4失策を喫している。そのうち3つのエラーがゴロ処理。遊撃手出身なら本来得意なはずのプレーでミスを重ねている。プロ野球選手でピークと言われるのは27歳前後。果たしてクルーズはMLBを代表するスーパースターになれるのか。パイレーツのデレク・シェルトン監督は「圧倒的なインパクトがあり、試合を変える存在だ」と期待する。本人は「このゲームにはアップダウンがあり、ジェットコースターみたいなもの」と表現、課題にメンタル面のコントロールを挙げている。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images