
今季からマーリンズを指揮するクレイトン・マッカロー監督。お金がない中でも、さまざまな工夫を凝らした練習を行っている。イノベーションで乗り切ろうとしているが、果たしてうまくいくのだろうか?
労使協定(CBA)では球団は受け取った収益分配金を「チームのフィールド上のパフォーマンス向上に努める」ために使用することが義務付けられている。そして球団のぜいたく税換算の年俸総額は、収益分配で受け取った金額の1.5倍以上でなければならない。
しかしながらマーリンズは協定を破ろうとしている。同球団は7000万ドル以上の収益分配金を受け取るはずで、であれば年俸総額は1億500万ドル以上でないといけないが、現時点でわずか8546万ドルと、2000万ドルも下回っている。そしてチームはシーズン中に必要な補強をするどころか、エースのサンディ・
アルカンタラを放出する可能性のほうがはるかに高い。彼の年俸1730万ドルは、チーム内で群を抜いて高額。ほかは全員500万ドル以下なのである。
オーナーのブルース・シャーマン氏が2017年9月に球団を引き継いで以来、そのけちん坊ぶりは有名。だが批判されても低予算球団がよく使う主張を口にする。「われわれは投資している。インフラに! テクノロジーに! スタッフに!」というものだ。それは重要だが、強くなるのに最も重要なのは良い選手を集め、逃がさないことだ。だがマーリンズの40人ロースターの中で、メジャー・リーグ経験が3年以上ある選手はわずか4人。経験を積み、金額が上がると放出してしまうのである。
さてそんなチームで、ピーター・ベンディックス編成本部長が重要と主張しているのがイノベーションだ。例えば魚雷バットの発案者として有名になったアーロン・レーンハートを採用、フィールドコーディネーターにしている。すでに一番打者のザビエル・
エドワーズ、五番打者のカイル・ストワーズらが使用しているが、ほかの選手にも広めていく考え。
さらに外野守備コーディネーターのネイサン・ミコラスが考案した、守備を改善するための評価システム。キャンプ中、練習フィールドの外野に「サークル」が描かれた。これはスタットキャストの「キャッチ確率」を可視化したもので、打球までの距離、到達までの時間、移動方向をもとに、各打球に対してキャッチできる可能性をパーセンテージで表したもの。5つ星キャッチ(キャッチ確率0~25%の難プレー)を何回できるか競い合わせた。大事なのは初動の速さと反応。そこで外野手たちは、投球がホームプレートを通過する瞬間にジャンプから着地するようにタイミングを取った。勢いをつけることで初速を得るためだ。
マーリンズの監督は昨年ドジャースで一塁ベースコーチだったクレイトン・マッカロー。彼が率いるメジャーでも最も若いコーチングスタッフが、知恵を絞り、若い無名の選手を育てていく。「イノベーションを重視し、試合中の戦略も含めて、いろんなアイデアを使っていく」と言う。
マーリンズは今季最初の27試合を終えたところで、打撃陣のOPSは.708で20位。投手力、チーム防御率は5.32で28位だ。チーム成績は12勝15敗でナ・リーグ東地区の最下位タイ。果たしてイノベーションだけで、本当に強くなる日はやって来るのだろうか。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images