
今季60勝41敗と好成績を残しているブリュワーズの総年俸は1億3911万ドル。一方、ビッグマーケット球団であるドジャースは59勝42敗で、今季支払う予定のぜいたく税はブリュワーズの総年俸よりわずかに多い1億5700万ドルだ。球団間の金銭的な格差が広がる中、サラリーキャップの議論が再燃している。現在の労使協定が来季に終了するため、スモールマーケット球団の戦いに注目だ
ドジャースの地元紙『ロサンゼルス・タイムズ』は、今年はブリュワーズを応援すべきかもと野球ファンに呼びかけている。その背景には、現在の労使協定が来季のシーズン終了後に失効すること、そして一部のオーナーたちがサラリーキャップの導入を強く望んでいるという事情がある。ロブ・マンフレッドMLBコミッショナーも、「必要ならロックアウトも辞さない」と発言しており、事態は緊迫している。
これに対し、メッツのピート・アロンソは「みんな分かっている。ロックアウトで試合が削られるってね。俺たちは絶対にサラリーキャップには反対する」と述べ、選手会も一歩も引かない構えだ。サラリーキャップの議論が再燃しているのは、球団間の年俸総額の格差が拡大しているからだ。
ロッキーズのディック・モンフォートオーナーは、「ドジャースは、制度を変えるべきだという主張に、これ以上ないほどの説得力を与える存在」と言う。ぜいたく税の対象となる年俸総額で、ドジャースは4億600万ドルとダントツの1位、支払う予定のぜいたく税は1億5700万ドルにのぼり、総額では5億6300万ドルに達する。
2022年以降、ぜいたく税の税率は上がったが、ドジャースやメッツといったビッグマーケット球団は、依然として史上最高水準のチーム年俸を維持している。一方で、ロッキーズの年俸総額はわずか1億4300万ドル。モンフォートオーナーは、「5億ドルを投じ、スター選手で埋め尽くされた相手と、どうやって戦えというんだ」と訴えている。
スモールマーケット球団が最後にワールド・シリーズを制したのは、15年のロイヤルズだ。そんな中、スモールマーケットのブリュワーズは、年俸総額わずか1億3911万ドルながら、現地時間7月23日現在、60勝41敗と59勝43敗のドジャースを上回る成績。直接対決では6連勝した。さらに、今季だけでなく、過去7年間で6度もプレーオフに進出し、持続的な成功を収めている。もしブリュワーズが今年世界一になれば、「制度改革が必要」という主張は説得力を失うのである。
MLBではこれまでに何度もストライキやロックアウトによって公式戦の一部が中止される事態が発生してきた。最悪の例は1994年から95年にかけて、サラリーキャップ導入をめぐって全面的に対立し、7カ月半におよぶストライキに発展。ついにはワールド・シリーズまでキャンセルされた。その後は労使関係もある程度安定し、協調が保たれてきたが、今は状況悪化、「もしドジャースが連覇に成功すれば、2027年シーズンの開催は危うくなる」と懸念されている。
ちなみに、前回の労使交渉(21〜22年)は99日間にわたるロックアウトの末、3月10日に新たな協定が締結され、ぎりぎりで162試合制のシーズンが維持された。それにしてもこんな嘆かわしい状況があるだろうか。
大谷翔平とドジャースは真剣に連覇を目指している。
ところがそれが実現した場合、「制度改革が必要」という主張に説得力を与えてしまう。本来なら祝福されるべき快挙が、制度の矛盾を浮き彫りにし、シーズン開催の是非に影響を与える。極めていびつで、おかしな事態なのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images