
ドジャースと契約したタッカー。年平均額ではMVP3度のジャッジよりも高い。現在のMLBは、打率や打点といった結果指標よりも、打撃プロセス指標や価値評価指標が重視されていることから、タッカーの年俸が跳ね上がったのだ
ドジャースがカイル・タッカー外野手と4年総額2億4000万ドル(年平均6000万ドル)で契約した。年平均額は、MVPを3度受賞しているアーロン・ジャッジより2000万ドルも高く、MVP投票でトップ6入りを5度果たしている
フアン・ソトよりも年900万ドル多い。
だがタッカーは、これまでMVP投票の対象になったのは3度のみで、順位は20位、15位、5位。シーズン最多本塁打は30本で、打率3割を超えたこともない。
では、ドジャースだけが法外な金額を提示したのかというと、そうではない。メッツも4年総額2億2000万ドル(年平均5500万ドル)をオファーした。それにしても、なぜここまで年俸が跳ね上がったのか。タッカーは極めて優れた打者である。ボール球に手を出さず、チェイス率は17.6%。これはMLB平均の28.4%を大きく下回る。
四球率は14.6%(MLB平均8.4%)、三振率は14.7%(MLB平均21.2%)と、選球眼は球界屈指だ。wRC+(得点創出力をリーグ平均・球場差を補正し、100を基準にした打撃指標)は5年連続で130以上。2024年は179を記録している。WARも平均で4.68と高水準だ。
現在のMLBでは、打率や打点といった結果指標よりも、こういった打撃プロセス指標や価値評価指標が重視される。加えて、タッカーは1月17日に29歳になったばかりで、次の2年のFA市場に大物野手が見当たらないという市場環境も、価格を押し上げている。
オフシーズン当初は、タッカーの契約は10年を超えるのではという見方があった。実際、ブルージェイズは10年総額3億5000万ドルをオファーしたが、ドジャースとメッツは4年にとどめた。
両球団は、タッカーは29歳から32歳までは高い価値を維持できるが、33歳以降はパフォーマンス低下のリスクがあると判断した。懸念材料の一つは故障歴だ。24年は78試合、25年も136試合の出場にとどまっている。
また守備面では、22年にゴールドグラブ賞を受賞したものの、その後は低下傾向にある。OAA(アウト・アバブ・アベレージ)は、平均的な守備選手と比べてどれだけ多く(または少なく)アウトを取ったかを示す指標だが、22年は「+5」、その後は「-5」「+2」「-2」と下がった。
打撃面でも、現在は30本塁打を期待できるものの、スイングスピードや打球速度は平均的で、30代半ばでもパワーに依存できるかどうかは疑問が残る。盗塁も23年は30個、25年は25個を記録しているが、純粋なスピード型ではない。
ドジャースはタッカーに強い関心があったが、
大谷翔平や
ムーキー・ベッツに与えたような10年超の契約を結ぶ意思はなかった。そしてブルージェイズの総額3億5000万ドルに少しでも近づけるべく、年平均6000万ドルという高額年俸を提示し、タッカーもそれを選択した。
タッカーはこの4年契約において、2年目と3年目終了後にオプトアウト条項を盛り込み、再びFA市場に戻り、自身の価値を問い直そうともしている。それにしても、MVP投票で最高でも5位のタッカーの年俸が、あのジャッジを2000万ドルも上回るという事実にはぬぐい切れない違和感が残る。
だが、それこそがFA市場の現実であり、摩訶不思議な世界なのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images