
MLBでは当たり前のピッチクロック。何年もやってきたメジャー組と短期間で慣れることを求められたWBC日本代表。今後もピッチクロックは変わっていくが、日本ではいつ導入されるのだろうか
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)での侍ジャパンの敗因については、さまざまな指摘がなされているが、筆者が感じたのは、投手がピッチクロックに慣れていなかったという点だ。近年のMLBではルール変更が相次いでいる。
そして、この流れは今後さらに加速する。2026年からMLBで正式導入されるABS(自動ストライク判定)チャレンジ制度は、今回のWBC準決勝・アメリカ対ドミニカ共和国の結末を踏まえれば、次回大会で間違いなく採用されるだろう。
そうした中、3月中旬、MLBは全球団に対し、今季もマイナー・リーグで複数のルール変更実験を行うと通達した。まず注目されるのが「二塁ベースの移動」である。3Aのインターナショナルリーグでは、二塁をダイヤモンドの内側に配置し、各塁間の距離を短縮する。一塁・三塁からは約23センチ短くなり、ベースサイズ拡大前と比べると約34.3センチの短縮となる。さらに2Aの3リーグではけん制やプレート外しの回数も削減される。
現行ルールは3回目でアウトにできなければボークだが、これを2回目とする。背景にあるのは盗塁の減少だ。3年前、MLBは盗塁増加を狙ったルール変更を導入し、当初は成果を上げた。しかし25年には企図数、成功率ともに低下したため、再びテコ入れを図る。複数リーグで異なるルールを試すのは、その効果を比較・検証するためだ。
さらに、チェックスイング判定にもテクノロジーが導入される。これまでLow-Aのフロリダ・ステートリーグで行われてきたバットトラッキングの実験が、3Aのパシフィックコーストリーグにも拡大される。
基本的な判定は従来どおり審判が行うが、打者・捕手・投手はいずれもチャレンジ可能となる。ただし判定が覆らなかった場合、ABSのボール・ストライク判定用のチャレンジ枠を消費する。この制度で興味深いのは、「スイング」の定義が初めて明文化された点だ。バットヘッドとバットの柄の最大角度が45度を超えた場合、スイングとなる。従来、打者はほぼ0度付近でバットを止める技術を磨いてきたが、この基準では、かなり前に出しても「振っていない」となる。
投手側に不満が出るのは確実だが、狙いは三振率の低下にあり、昨季のフロリダ・ステートリーグでは3ポイント以上の改善が見られた。
また、ピッチクロックの抜け道もふさがれつつある。導入から3年が経過し、試合時間は一度短縮されたものの、昨年は再びわずかに延びた。選手が抜け道を巧みに使うからだ。そこでLow-Aでは、特別な事情がない限り打者はタイムを要求できなくなる。High-Aでは走者がいる場合に限り許可される。2Aと3Aではタイム自体は可能だが、審判は打者の準備を待たず、リセットしたクロックを即座に動かす。
さらに投手がピッチコムの不具合を理由に時間を止めた場合、3Aではマウンド訪問1回分としてカウントされる。訪問回数を使い切っていればボールが宣告される。加えて、マウンド訪問自体にも時間制限が設けられる。
最終的にどのルールがMLBで採用されるかは分からない。確かなのは、ルールは今後も変わり続けるということ。侍ジャパンが勝ち続けるためには変化するルール環境にいかに素早く適応できるかなのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images