
開幕戦に74.99ドルで販売されたプラスチック製のコップ。価格には「購入当日のソーダ飲み放題」が含まれていたが、高額過ぎるとの声を受け、28日までに68.99ドルへ値下げし、さらにリフィル[おかわり]も「シーズン中有効」へと変更された。どれだけ、大谷に関する物がプレミア化するのだろうか
アメリカでは、
大谷翔平の人気は単なるスポーツ選手の域を超え、「資産市場の熱狂」とも言える現象を生んでいる。人々の購買動機は「応援のために買う」から、「値上がりを期待して買う」へと変化しつつある。そしてドジャースも、その動きを的確に捉えたマーケティング戦略を展開している。
その象徴的な例が、ドジャー・スタジアムの開幕シリーズで販売された限定版の大谷翔平記念カップだ。ナ・リーグMVPのユニフォームを模したデザインのプラスチック製のコップは、開幕日の現地時間3月26日に74.99ドルで販売された。価格には「購入当日のソーダ飲み放題」が含まれていたが、高額過ぎるとの声を受け、28日までに68.99ドルへ値下げ。
さらにリフィル(おかわり)も当日限定から「シーズン中有効」へと変更された。この商品が大きな話題を呼んだ背景には、「限定版」という希少性がある。正確な生産数は公表されていないが、記念カップは28日の試合中に完売。翌29日にはすでに複数がeBayに出品され、そのうち1個は290ドルで落札されたという。
同様の動きは、ほかの商品にも広がっている。2026年のドジャースのイヤーブックは、球団史上初めて2種類の表紙で発売された。カバー1は25年のワールド・シリーズ連覇を記念し、新加入の
カイル・タッカーと
エドウィン・ディアスを加えたスター軍団をデザイン。カバー2はMVPをテーマに、大谷翔平とワールド・シリーズMVPの
山本由伸が表紙を飾った。
いずれも数量限定で販売され、特に大谷と山本のバージョンはスタジアム限定とされた。大谷関連グッズの人気はすさまじく、需要が供給を大きく上回っている。そのため、プラスチック製のコップであっても売れ、さらに数量を絞ることで希少価値が生まれる。ドジャースはこうした状況を巧みに利用し、大谷需要を最大化している。
大谷と“お金”を巡るニュースは尽きない。アメリカスポーツビジネスサイト「スポルティコ」は先月、26年のスポンサー収入などによる副収入がスポーツ選手としては史上最高の1億2500万ドルに達するとの予測を報じた。
さらに、実際に試合で着用したユニフォームのパッチ(ロゴや番号の刺繍部分)を埋め込んだ直筆サイン入りの1点物カードは、昨年12月に300万ドルで落札。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の台湾戦で着用したユニフォームも150万ドルで落札され、過去最高額を更新した。
こうした高額商品だけではない。愛犬デコピンを題材にした児童書のサイン本は、定価25ドルにもかかわらず現在では1000ドル以上で転売されている。さらに野球カード市場では、低価格帯の商品ですら価値が急騰している。18年のルーキーカードは流通枚数が1万5000枚以上と多いにもかかわらず、最近では900ドル以上で取引されており、24年12月時点の200ドル未満から見れば異例の上昇だ。
フィールド上で不可能を可能にし続けてきた大谷は、26年シーズンにはサイ・
ヤング賞という新たな頂を目指している。3月31日の初登板では6回1安打無失点で勝利投手となり、ファンをさらに熱狂させた。その熱狂は今やフィールドの外へと広がり、「資産市場の熱狂」という新たな現象をも生み出している。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images