
日本人メジャー通算1000号を放ったホワイトソックスの村上宗隆。第1号は投手の野茂英雄だ。ダルビッシュ有、前田健太ら日本人投手が本塁打を放った。2022年から両リーグDHになり、投手の本塁打は見られなくなった
現地時間2026年5月1日、ホワイトソックスの村上宗隆がパドレス戦で今季13号本塁打を放ち、日本人メジャー・リーガー通算1000号を達成した。
1998年4月28日に野茂英雄が日本人第1号を記録して以来、28年目での大台到達である。筆者は、その第1号をドジャー・スタジアムで取材していた。あのときの高揚感は、いま振り返っても特別で光景は今も目に焼き付いている。
野茂はメジャー通算打率.134、543打席で222三振を喫し、打席の約40%が三振だった。決して打撃技術に優れていたわけではない。それでも、1打席もおろそかにせず、マウンドだけでなく、打席でも常に闘志満々。力強いスイングで、必死にボールに食らいついていた。
追い込まれると、多くの場合は変化球にバットが空を切ったが、あの打席は直球だった。内角高めの真っすぐを振り抜くと、快音を残した打球は糸を引くようなライナーとなって左翼ポール際へ。そして、そのままブルペンに飛び込んだ。「えっ、まさか。本当に? ああ、入った……」。そんな感覚だった。
普段は感情を表に出さない野茂が頬を緩め、満面の笑みを浮かべながらダイヤモンドを一周。ドジャースのダグアウトもお祭り騒ぎだった。試合後、本人も「うれしかったから、思わず笑みが浮かびました」と認めている。あれから日本人選手の本塁打は1本1本積み重なり、ついに1000本に到達した。
野茂のデビューから4年目に生まれた日本人第1号。その瞬間はこんな時代が来るとはまったく想像もしなかった。それだけに素晴らしい快挙だと思う。
ただ、主に投手を担当してきた筆者の中で特に記憶に残るのは、やはり投手による本塁打である。ドジャースの前田健太(現・
楽天)は2016年4月6日、メジャー・デビュー戦でいきなり本塁打。もともと打撃が好きだと言っていただけに、打席での構えにも雰囲気があった。技術もあり、スライダーを見事にとらえると、打球は左翼スタンドへ飛び込んだ。
ベンチに戻った前田を待っていたのは、「サイレントトリートメント」だった。誰も反応しない。祝福しないふりをする。メジャー流の手荒い歓迎である。試合後、エースの
クレイトン・カーショウは、いたずらっ子のような表情でこう言った。
「俺は8年間で1本なのに、たった2打席で追いつかれるなんて……。日本ではやらないだろうし、びっくりさせてやったよ」
同年、レンジャーズのダルビッシュ有が放った一発も強烈だった。8月24日のレッズ戦。あの年はトミー・ジョン手術からの復帰後で、意図的に体を大きくしてシーズンに臨んだ。打球はライナーで中堅右のフェンスを越え、芝生席に。打球速度は105.2マイル、飛距離は410フィート、投手の一発というより、堂々たるスラッガーの打球だった。
本人は試合後、「打撃練習でパワーがめちゃくちゃついていて、おかしい感じはしていた。監督には『打てる』と予告していました」と明かした。
大谷翔平を除けば、いまのメジャーで投手が本塁打を打つ機会はほぼなくなった。だからこそ、いま思い返すと、投手が思いがけない一発で球場全体を揺らす光景は、なおさら鮮やかに蘇る。日本人通算1000号という快挙を喜びながら、一方で、そんな野球の風景が失われてしまったことに、寂しさも覚えるのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images