
今季の本塁打数は、昨季までに比べると少ない大谷翔平。だが、スタットキャストの打撃指数を見ると、例年よりも質の高い数字を残している。今季は成熟した打者としての新しい姿を見せている
大谷翔平の今季の打撃成績だけを見れば、やや物足りなく映るかもしれない。現地時間6月29日終了時点で打率.297、出塁率.412、長打率.546、18本塁打。昨季の55本塁打、一昨年の54本塁打と比べれば、本塁打ペースは遅いし、長打率も6割台から5割台に下がった。
しかし、スタットキャストの詳細データを掘り下げると、そこには「衰え」ではなく、むしろ一番打者としての成熟が見えてくる。最も象徴的なのが、Fast Swing Rate(75マイル以上の高速スイング率)だ。2023年は74.4%、24年は64.1%、25年は61.9%だったが、今季は48.7%まで低下している。つまり大谷は以前ほど毎打席フルスイングしていない。
一方で打球の質を示すSweet-Spot%(打球角度8〜32度の割合)は41.8%とキャリア最高を記録している。昨季の35.9%を大きく上回り、メジャーでもトップクラスだ。本塁打数は減っているものの、理想的な角度で打球をとらえる能力はむしろ向上している。ここに今季の大谷の進化がある。あえて言えばチームメートの
フレディ・フリーマンに近づいている。フリーマンは今季ここまで36.5%だが、キャリアトータルは平均42%である。
これまでの大谷は、圧倒的なパワーで試合を支配する打者だった。24年は54本塁打と59盗塁を同時に達成し、25年も年間55本塁打(ポストシーズンを含めれば63本塁打)を放った。白球を破壊するようなパワーを見せつけた。ところが今季は違う。出塁率.412は昨季の.392を上回り、キャリア最高水準に達している。四球率も15.5%と高い。以前なら長打を狙っていたカウントでも、無理に勝負せず出塁を受け入れている。結果として打率も.297と高い水準を維持している。
興味深いのは、こうした変化が投手完全復帰のタイミングとも重なることだ。今季の大谷はサイ・
ヤング賞候補に挙げられるほどの投球を続けている。100マイル近い直球を投げ、ローテーションを守りながら、打者としても毎日試合に出場している。二刀流を続けるためには、20代のころのように常に最大出力でプレーすることは現実的ではない。実際、盗塁数は77試合で6個と大きく減り、スプリントスピードも落ちている。
しかしそれは能力の低下ではなく、出力を使う場面を選んでいる結果だ。打撃でも同様。最大出力のスイングは減ったが、その代わりに打球角度の管理や選球眼の向上によって、打席全体の価値を維持している。NBAのレジェンド、レブロン・ジェームズが30代後半になっても頂点近くに居続けた理由は、身体能力だけに頼らず、エネルギー配分やプレー選択を進化させたからだった。
大谷も二刀流を続けるために、工夫をしているように見える。大谷は7月に32歳になり、もはや若いとは言えない。その代わりに野球をより深く理解し、自らの身体をより効率的に使う術を身につけている。強打者としての破壊力を内側に残しながら、巧打者としての比率を高めている。
24年は50-50の超人、25年は55本塁打の強打者。そして26年は、投打を両立しながら高出塁率で試合を支配する成熟した打者へと姿を変えつつある。大谷のすごさは、毎年、状況に応じて自らを進化させ、まるで別の選手のような姿を見せ続けることなのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images