カブスのピート・クロウ=アームストロング(PCA)中堅手は、今のMLBで最も魅力的な選手の一人だ。オールスター戦では、ドジャースの
アンディ・パヘスに代わって6回から出場し、8回には中前打を放った。さらに守備中にはテレビ中継のインタビューに応じ、子どものころに取り組んだスポーツを聞かれると、サッカーの話を始めた。
「サッカーに夢中だった。小さいころから(イングランド・プレミアリーグの)チェルシーの大ファンで、自然とイングランド代表も応援するようになった」
そのサッカー経験が、異次元とも言える外野守備につながっているのかもしれない。
近年のMLBでは、外野守備の分析が著しく進歩した。かつては「足が速い」「肩が強い」といった印象で語られがちだったが、現在は打球への反応、最初の加速、走るルート、守備範囲まで細かく数値化される。
その中でPCAは、まさに別格の存在である。代表的な指標がOAA(Outs Above Average)だ。平均的な野手と比べ、どれだけ多くのアウトを奪ったかを示す指標である。PCAは2025年にMLB全体トップの+24を記録し、26年も+16でナ・リーグ1位につけている。
では、なぜこれほど多くの打球に追いつけるのか。一つはスプリントスピードだ。今季も秒速29.5フィート(約9メートル、時速約32キロ)で、トップクラスを誇る。しかし、本当の武器は単純な足の速さだけではない。まず際立つのが「リアクション」だ。これは打球が飛んでから最初の1.5秒間に、平均的な外野手よりどれだけ正しい方向へ進めたかを示す。
今季はプラス2.1フィート(約64センチ)。続く「バースト」は、その次の1.5秒間の加速を示し、こちらもプラス3.0フィート(約91センチ)と最高水準だ。リアクションとバーストを合わせると、打球が飛んでから最初の3秒間で、平均的な外野手より約1.5メートル先まで到達している計算になる。一方、走るルートを示す数値はマイナス0.1フィートで必ずしも最短距離を走っているわけではない。それでも圧倒的な反応と加速によって、ほかの外野手の及ばない守備範囲を実現している。
しかも、守備範囲に弱点がほとんどない。一般的な外野手には「前方の浅い打球には強いが、頭上を越される打球は苦手」、あるいはその逆といった傾向がある。ところがPCAは、前後左右すべてでアウトを積み重ねている。
守備によって平均的な選手より何点防いだかを示す総合指標、Fielding Run Value(FRV)でも、その価値は明白だ。PCAは2025年に+21、26年も+17でメジャー全体1位。その大半は、すでに述べた圧倒的な守備範囲によって生み出されている。
一方、肩だけを見れば、平均送球速度は91.5マイルで平均をやや上回る程度に過ぎない。ところが、打球への到達が速く、捕球から送球への移行も素早いため、相手走者はPCAの方向へ打球が飛んだ時点で進塁をあきらめることが多い。
平均的な外野手が守る場合、走者は44%で次の塁を狙うと予測されている。しかしPCAだと、実際に挑戦した割合は40%にとどまる。この進塁阻止だけでも、FRVでは約3点分の失点を防いだと評価されている。サッカー少年が身につけた瞬発力と機敏さ。その価値は、データ分析が進化した現代野球だからこそ、これまで以上に明確に証明されている。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images