
伝統球団の若きエースとして期待されているシュリットラー。ワイルドカード・シリーズでは好投を見せ、次世代のエースとしての威厳を見せた。今後どんな活躍をするのか楽しみだ
ヤンキースに、新しいエースが誕生した。キャム・シュリットラー、25歳。今季33試合に先発して14勝6敗、防御率1.95、239奪三振。防御率はア・リーグトップで、ヤンキースの先発投手としては1978年にロン・ギドリーが記録した1.74以来の低さだった。その勢いは10月に入っても変わらない。レッドソックスとのワイルドカード・シリーズ第1戦では、立ち上がりから100マイル(約161キロ)を連発。6回1/3を2安打、10奪三振、無失点に封じ、9対0の勝利を呼び込んだ。ヤンキースタジアムには「MVP」
コールまで響いた。
「レジェンドになりたいなら、ポストシーズンで結果を残さなければならない。それはもちろん僕の目標です」。試合後の会見でそう言い切った。
シュリットラーの最大の武器は速球である。ただし、単に速いだけではない。フォーシーム、シンカー、カッターという3種類の速球系を操る。今季はフォーシームが平均98.0マイル、シンカーも97.8マイル、カッターは94.6マイル。全投球の実に約9割を、この3球種が占めた。フォーシームとシンカーは球速がほとんど同じでも、軌道が異なる。
さらに逆方向へ動く高速カッターが加わる。打者は「速球が来る」と分かっていても、どの軌道にバットを合わせればいいのか、瞬時に判断しなければならない。フォーシームの被打率はわずか.163、空振り率34.8%。現代のMLBでは変化球の割合が増えているが、シュリットラーは逆に「複数の速球」で打者を圧倒する。
最初から剛腕だったわけではない。マサチューセッツ州出身で、ノースイースタン大から22年ドラフト7巡目でヤンキース入り。マイナー時代には平均90マイル程度だった速球を、肉体改造と投球技術の改善によって現在の98マイルまで引き上げた。まさにヤンキースの育成システムが生み出したエースでもある。そしてもう一人、その成長を支えている人物がいる。
ヤンキース黄金時代を知るアンディ・ペティットだ。ワールド・シリーズ優勝5度、ポストシーズン歴代最多19勝を誇る左腕は、現在GM特別補佐を務めており、シュリットラーとは昨季から親交を深めてきた。登板後には連絡を取り合い、時には試合中にもシュリットラーが助言を求める。
アーロン・ジャッジは34歳、ゲリット・コールは36歳。24年にワールド・シリーズへ進出したチームの両輪が年齢を重ね、ヤンキースが王座を奪還できる時間は次第に限られていくかに思われた。
ところが、新しい力も着実に育ってきた。打線では27歳のベン・ライスが今季、打率.264、41本塁打、97打点、OPS.897と大きく飛躍した。本塁打はア・リーグ4位、OPSは3位。ワイルドカード第1戦でも2本塁打、6打点と爆発し、シュリットラーの好投を援護した。
そしてマウンドにはシュリットラーがいる。ともにニューイングランド出身で、ドラフト中位から這い上がってきた2人である。ジャッジやコールの全盛期がいつまでも続くわけではない。
しかし、その後ろから新たな中軸が現れたことで、ヤンキースには現在だけでなく、次の時代への道筋も見え始めた。
大谷翔平、
山本由伸らを擁する王者ドジャースにとって、ヤンキースは今年だけでなく、これからも王座を争う大きな存在になりそうだ。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images