
打撃だけでなく、守備でもチーム初の世界一に導いたコントレラス。ブリュワーズの強さを象徴する人物として歴史に名を刻んだ
ワールド・シリーズで、ブリュワーズの
ウィリアム・コントレラス捕手がMVPを獲得しスーパースターの輝きを放っている。レイズとの第1戦では2安打1打点。守っては2度の盗塁を阻止し、ABSチャレンジも成功させた。
今ポストシーズンは打率.373、3本塁打、OPS1.036。だが、その真価は数字だけでは測れない。8月15日、ドジャー・スタジアムで、その能力を目の当たりにした。先発の剛腕ジェイコブ・ミジオロウスキーが5回一死満塁、
大谷翔平、
フレディ・フリーマンを連続三振に仕留めた。試合後、クラブハウスでミジオロウスキーに話を聞くと、意外な答えが返ってきた。
「すべてウィリアムのおかげだ。リードで主導権を握る彼が、何かに気づいてくれた。それで攻め方を修正したんだ」
続いてコントレラスにも聞いた。「あの場面では、相手が速球を狙っていると分かっていた。あとはスライダーをしっかり投げ切ることだった」。自らこの日はカーブよりスライダーが有効だと判断したという。事前の配球計画に固執せず、その日の投手の状態と打者の反応から攻め方を変える。そんな正捕手をパット・
マーフィー監督はポストシーズンでも厚く信頼している。時には投手コーチを驚かせる配球をすることもあるが、監督はその判断力を尊重する。
さらに興味深いのが、今季導入されたABSチャレンジへの適応だ。コントレラスはレギュラーシーズン、捕手としてメジャー最多の185回に挑戦。成功率は56.8%で、8月には46%まで落ち込んだ。それでも経験を重ね、9月は36回中27回成功、75%に上昇した。
注目したいのは成功率だけではない。8月にはストライクゾーンから1インチ以上外れた球にも7回挑戦していたが、9月はわずか1回。挑戦すべき球を見極める精度も高まっていたようだ。ポストシーズンでも32回中21回成功、成功率66%。攻守に加え、ABSでも勝負を動かしている。
対照的なのがドジャースだ。8月21日のパイレーツ戦では、3AでABS経験を積んだハンター・フェドゥシア捕手が
山本由伸の投球で3度チャレンジし、すべて三振に変えた。しかし、ポストシーズンでは正捕手
ウィル・スミスを起用。ブリュワーズとのリーグ優勝決定シリーズ第2戦では、山本の際どい投球にチャレンジせず、三振を奪う機会を逃した。今季、負傷によって公式戦の出場が73試合にとどまった
スミスは、ABSの実戦経験も限られていた。チャレンジは59回と、コントレラスの3分の1以下。ポストシーズンでも7回中3回成功の43%だった。山本の登板時に限らず、チャレンジには慎重な姿勢が目立った。
一方のコントレラスは、成功も失敗も含め、誰より場数を踏んでいる。もちろん、捕手の起用をABSだけで決めることはできない。それでも、新ルールへの対応力を磨く機会という点で、両球団には大きな差があったのではないか。
失敗を恐れず挑戦し、自ら判断し、修正する。ワールド・シリーズでスーパースターの輝きを放つコントレラスの成長は、ブリュワーズの強さを象徴している。ABS時代の名捕手には、打てることだけでなく、チャレンジで試合を動かす新たな「眼力」が求められている。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images