
巨人・樋笠一夫による史上初の「代打逆転サヨナラ満塁弾」に巨人ベンチは大興奮、ダイヤモンドを一周してホームインする樋笠をナイン総出で出迎えた
中日は3点リードで「神様」が救援
1956年3月25日、後楽園球場にて巨人対
中日のダブルヘッダーが行われた。第1戦は2対1という僅差で巨人が勝利。続く第2戦も、両チームの先発による緊迫した投手戦として始まった。
巨人の先発は
安原達佳。テンポのよい投球で中日打線を封じ、6回を投げた時点で一人のランナーも出していなかった。一方、中日の先発の
大矢根博臣も毎回のように安打を打たれながらも要所を抑え、無失点ピッチングを続けた。4万3000人の観客は固唾(かたず)を呑み、手に汗を握って試合を見守った。
試合が動いたのは7回表だった。二死無走者の場面、中日21人目の打者として三番の
杉山悟が打席に入った。カウントはスリーボール・ノーストライク。四球を嫌った安原がカウントを整えようと投じたストレートを、通算209本塁打の強打者は見逃さなかった。バットを強く振り抜くと、打球はレフトフェンスを大きく越えた。先制ホームラン。安原の完全試合とともに、均衡がついに破られたのである。安原は9回にも2点を失い、中日のリードは3点に変わった。
大矢根は無失点投球を続けている。勝負あり、と誰もが思った。見切りをつけた巨人ファンはぞろぞろと出口に向かった。球場を出た彼らは、恐らくその判断をのちのちまで後悔し続けたに違いない。「野球は最後まで分からない」という教訓とともに。なぜならば「劇的」というよりほかにない一打が、そのすぐあとに飛び出したからである。
9回裏、ドラマは静かに幕を開けた。先頭打者の
加倉井実が中安打で出塁すると・・・
この続きはプレミアムサービス
登録でご覧になれます。
まずは体験!登録後7日間無料
登録すると、2万本以上のすべての特集・インタビュー・コラムが読み放題となります。
登録済みの方はこちらからログイン