週刊ベースボールONLINE

 

▲第3戦と比べ、カーブを多く配すことで巨人打線の目先を変え、6回無失点に抑えた美馬。シリーズ2勝でMVPにも輝いた





美馬学が再び巨人打線を抑えられた理由
169センチの小さな右腕がまたも大仕事をやってのけた。日本一がかかった一戦でシリーズ2度目の先発を任された楽天・美馬学。第3戦で5回2/3を無失点に抑え白星を挙げた27歳は、5日前とは違う“引き出し”で、再び対峙した巨人打線を封じ込んだ――。

 第3戦に先発登板して白星を挙げた楽天・美馬学が、シリーズ2度目の先発で再び巨人打線を牛耳った。

 シーズン6勝の右腕は、ロッテとのクライマックスシリーズ・ファイナルステージ第3戦(Kスタ宮城)を含め、ポストシーズン3試合計20回2/3を無失点。「出来過ぎです」(美馬)と振り返ったが、前回登板から中4日の間に確かに策を練ってマウンドに上がっていた。

 169センチと小兵だが、投球に角度が出ない分、ボールは低めに集まる。右打者にはシュート、左打者にはスライダーでインコースを強く意識させ、最後は鋭く落ちるフォークで仕留める――。東京ドームでは、6回に阿部慎之助の打球を右足に受けて途中降板するまで4安打5奪三振と、先発した5月23日の交流戦(Kスタ宮城)に1回6失点でノックアウトされたときから見違えるような姿を見せた。

 そして、大一番ではそこへさらにカーブを加えた。第3戦でも数球投げていたが、この日は投じた91球のうち、17球を効果的に配して巨人打線のタイミングを狂わせた。これには敵将・原辰徳監督も「今日の美馬をはじめ、相手投手を打ちあぐねた。最後まで流れをつかめなかった」と兜を脱いだ。カーブを駆使した理由を「行けるところまで、持っている力をすべて出さないと、巨人は抑えられない。嶋(基宏)さんのリードを信じました」と明かした。

 前日の第6戦、絶対的エースの田中将大でまさかの敗戦。通常なら登板前日は試合前に帰宅するが、この日は胴上げに備えトレーナー室でテレビ観戦した。今季初黒星を喫した右腕を目にして「チームを背負って投げていたのが、画面を通じて伝わってきた。それを受け継いで投げたい」と、胸が熱くなった。

 日本一がかかった「世紀の一戦」での盤石の投球。重圧がかかる中、則本昂大、田中と、イーグルスが誇る投手リレーを完成させた。「最高です。緊張はなかったし、日本一になろうと思い切り投げました。球場の雰囲気もすごくて、ファンとひとつになっていた感じです」

 中大時代には3度右ヒジにメスを入れ、今季も右ヒジ痛で5月下旬から約2カ月間に及ぶ戦線離脱を経験。さまざまな困難を経験したが、野球をやめようと思ったことは一度もなかった。野球への情熱と、周囲の人々が右腕を支えた。「シーズンで結果を残せなかったのに、使ってくださった監督に感謝しかない」

 大仕事をやってのけた小さな右腕は、球団史上初となるシリーズMVPの金色の盾を誇らしげに掲げた。

▲2点リードの4回一死。カウント0−2からのスライダーを牧田が左翼席へ。貴重な追加点を挙げた



▲則本は第4戦に続いてリリーフ登板。美馬の後を受けて2イニングを無失点に抑え、9回の田中につないだ



▲第6戦とは打って変わって粘り強さを発揮した楽天打線。三者凡退は8回のみ。写真は3打席いずれも二死から出塁した聖澤



▲シリーズ打率.091に終わった阿部。8回一死一塁で迎えた最後の打席も投ゴロに倒れる



11月3日(祝・日)/Kスタ宮城
◆開始18時35分 ◆観衆2万5249人

(楽)○美馬−則本−S田中
(巨)●杉内−澤村−内海−西村
(本)牧田1号(4回=澤村)

Match Report

 3勝3敗のタイで迎えた第7戦を制した楽天が、球団創設9年目で悲願の日本一を成し遂げた。初回、相手失策の間に1点を先制すると、2回には岡島の中越え二塁打で1点を追加。4回には牧田のソロ本塁打が飛び出し、さらにリードを広げた。楽天先発の美馬は6回を投げて無失点。7回からは中2日登板の則本、前日に9回を完投した田中のリレーで巨人に反撃を許さず。地元・仙台で星野監督が宙を舞った。

荒木大輔[野球評論家] POINT IN CHECK!
美馬を助けた先制点



 楽天先発の美馬は先頭の長野にいきなり死球を与えるなど不安な立ち上がりでした。前日の試合、無敗の田中が負けて巨人打線が目覚め始めていましたから、慎重なスタートになるのはしようがありませんが、それが気負いにつながっているように見えましたね。しかし、その裏、坂本のエラーにより味方が1点を先取してくれたことで、気持ちに余裕ができ、緩急を巧みに使った投球も有効で巨人打線を前回に続いて封じ込めました。

 初回に巨人打線が先制していれば、また展開は変わっていたでしょう。巨人先発の杉内はスライダーの制球が甘く、直球も高めに浮き、自分自身をまったくコントロールできていませんでした。楽天は2回に1点入れ、4回に牧田の本塁打で3点目を奪ったのも大きかった。昨日は2点を先制しながら3点目を奪えなかったのが、逆転された要因でしたから。被安打1の美馬から7回に則本をマウンドに送り、最後は田中。星野監督の勇気ある決断も光りましたね。
特集記事

特集記事

著名選手から知る人ぞ知る選手まで多様なラインナップでお届けするインビューや対談、掘り下げ記事。

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング