週刊ベースボールONLINE

 

2014年ドラフトは「豊作」と言われるが、その根拠はどこにあるのだろう。特に熱いカテゴリーはどこ?
そんな疑問を、元巨人チーフスカウトの中村和久氏が正面から受け止めた。
5つのテーマを元にして、その見どころを一挙公開。スカウト目線でドラフト対象選手を見れば、新たな楽しみ方が見つかるかもしれない。


1.鳥谷以来の即戦力内野手?
〜10年任せられる野手〜

 久しぶりに“本物”の内野手が現れたと言っていいだろう。鳥谷敬(阪神)と比較されるのは、同じ早大というだけではないはずだ。中村奨吾が今ドラフトの1位候補12人の中にいることは間違いない。チーム編成を考えれば、10 年は任せられる存在。チームでは二塁を守ることが多いが、三塁もこなせる。日米大学選手権では中堅も守り、内外野2ポジションをこなせることを証明したのは大きい。起用用途が増すからだ。

 打撃面では、ストライクゾーンを9分割してミートポイントを見ると、6ポイントにバットを出せるスイングをしている。内角高め、内角低め、外角低めの3ポイントはまだ空振りが多い。それでも、ベルトあたりの高さの球はコースに逆らわず左右に打ち分けるバットコントロールがある。今後はヘッドスピード、軸足にタメを作っての打撃が要求されるが打ち込みで対応できるはずだ。

 守備では、打球に対して正しく入ることができるが、一、二塁間の線上よりも前の打球への「一歩目」を学んでほしい。プロならば0.1秒が命取り。これは走塁にも生きるはず。攻守走すべてにおいてプロで勝負できる貴重な人材である。

2.大学生サウスポーの充実
〜タイプ別のサウスポー〜

 2014年の投手リストを見ると、サウスポーは「先発タイプ」と「中継ぎタイプ」に分類することができる。前者に該当するのが山崎福也(明大)、石田健大(法大)、島袋洋奨(中大)で、後者は高梨雄平(早大)、大橋直也(大院大)、秋山翔夢(八戸学院大)だろう。大学生だけでこれだけの好左腕の名が挙げられるのは珍しい。「左腕豊作年」とも呼べそうだ。

 東京六大学リーグで16勝、15勝と最多勝争いを演じているのが山崎福と石田である。山崎福はカーブ、シンカーが良いが、昨秋はバランスを崩して苦しんだ。石田は好不調の波が大きく、これがストレート、カーブの出来に直結している。プロを目指す上で最も必要なのは安定感だろうか。島袋も東都大学一部リーグで苦しんでいる。右打者の内角へ食い込むクロスファイアー、そして外角低めの精度が調子のバロメーター。この「琉球トルネード」が本来の姿を取り戻し、ドラフト戦線の主役の座を奪うことができれば、その面白みはさらに増すだろう。

 高梨ならカーブ、大橋ならスライダー、秋山はスライダーが良い上にスタミナもある。それぞれの特徴はプロのニーズにも合致しそうだ。

3.センバツは“発掘”の宝庫!?
〜甲子園は急成長の場〜

 センバツに限らず、甲子園という大舞台は、選手に急成長を促す貴重な場である。昨年、阪神のルーキーとして10勝を挙げた藤浪晋太郎の高校時代を思い出してほしい。2年秋の時点では並外れた長身を持て余しており、上半身主導の投げ方だった。それでも一冬越えると下半身が鍛えられた。そして甲子園で投球フォームを作り、配球を覚えた。大阪桐蔭高で成し遂げた春夏連覇への歩みはすべて右肩上がり。甲子園という大舞台が一人の投手を急成長させる場なのだと、あらためて実感した。

 この春、その藤浪に通じる成長過程の投手が見られそうだ。187センチの本格派右腕・飯塚悟史(日本文理高)である。昨秋の神宮大会では準優勝。センバツ出場が決まれば、3季連続ということになる。その投球を見れば春よりも夏、夏よりも秋と、順調に育ってきており、まだまだ伸びしろを残している。非凡な打撃に加え、センバツで2勝でもすれば、安樂智大(済美高)、高橋光成(前橋育英高)ともに“高校BIG3”と呼ばれるようになるかもしれない。その手前まで来ていることは確かだ。

4.不出場組の夏への期待度
〜春から夏への成長〜

 センバツ不出場組の代表格といえば、先に挙げた安樂、高橋の両右腕である。センバツ出場は秋季大会の結果により絶望的とあって、今はその先の春へ向けて地道にトレーニングに取り組んでいる最中のはずだ。この2人には、春季地区大会で予定どおりの登板数をこなしてもらいたい。そこでしっかりと結果を残せばプロへ進む上での評価につながっていくのだ。

 安樂智大は体に力があり、東北楽天を日本一に導いた田中将大タイプの「特」がつくA評価。心配なのは、ヒジや肩の状態。春の時点でその不安がなく、今までの技術を維持できていれば問題ない。高橋も現時点で1位単独指名も予想され、重複もあるかもしれない。

 また、栗原陵矢(春江工高)や清水優心(九州国際大付高)ら捕手、桑原樹(常葉菊川高)、西山天翔(熊本工高)ら内野手も最後の夏に向けてしっかりと仕上げることができるか。このあたりにも注目したい。

5.計算できる社会人のニーズ
〜情報戦が生む相乗効果〜

 なぜ社会人には人材が豊富なのか。幸か不幸か、かつて200近くあった社会人チームは、今や80ほどにまで激減している。世の中の不況のあおりを受け、企業が野球部を維持することができなくなっている。その影響もあり、同地区で同じ相手との試合が増えた。必然的に、相手のデータは多くなる。プロ並みのデータを駆使して、投手は打者の攻め方を研究し、逆に打者は投手の攻略法を探る。その相乗効果によりレベルアップができるのである。

 投手では、プロ・アマ混成チームの侍ジャパンで海外経験を積んだ高木伴(NTT東日本)が頭一つ抜けた存在。それ以外でも鮫島優樹(三菱重工広島)や吉田奈緒貴(JR九州)のように地味ながら球に威力があり、変化球をきちんと投げられる投手が多い。打者では石川駿(JX-ENEOS)、岡崎啓介(日立製作所)らのようにバットコントロールの良い選手が多数存在する。

 情報が多い中での対決は、メンタル強化にもつながる。実はこれがドラフトで評価される部分でもある。「社会人イコール即戦力」という図式は短絡的かもしれないが、実際に当てはまることが数多くあるのだ。

▲年が明ければシーズンインまであっという間。熱いスカウト戦線はすでに始まっている

特集記事

特集記事

著名選手から知る人ぞ知る選手まで多様なラインナップでお届けするインビューや対談、掘り下げ記事。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング