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ポジション特集第1弾・二塁手の極意
インタビュー 楽天・藤田が明かす 超頭脳的セカンド守備

 

どんなに速く、どんなに難しいバウンドの打球もこの男の手にかかれば一網打尽。打ったバッターはその時点でアウトを覚悟しなければならない。「アイツの守りにはシーズン10勝以上の価値がある」と普段は選手に厳しい星野監督も絶大な信頼を寄せる守備のスペシャリスト・藤田一也。現役NO・1とも評される男の二塁守備の極意に迫った。
取材・構成=松井進作、写真=桜井ひとし、荒川ユウジ



縦横無尽に動くポジショニングの妙


――単刀直入にお聞きしますが、藤田選手が考える「良い二塁手」とはどんな選手ですか。

藤田 挙げればいろいろとありますけど、やっぱり一番はピッチャーが打ち取った打球を確実にアウトにできる選手ですかね。結局はそこに尽きるのかなと。二塁手に魅せるプレーは必要ないですし、地味ながらも1つのアウトをしっかり取れる選手が良い二塁手だと僕は思っています。

――その1つのアウトを取るために技術とともにポジショニングも大切になってくるかと思いますが、守備位置を決めるときに一番重要視していることは何ですか?

藤田 場面、場面で違ってきますけど、基本になる判断材料としてはバッターの過去の打球方向、その日のスイングの仕方、ピッチャーがボールの速いタイプなのか、コントロールで勝負するタイプなのか、バッテリーの配球……。あとはそのバッターが引っ張ってくることが多いのか、ランナーがいるときは逆方向を狙ってくることが多いのかを総合的に考えて動くようにはしています。

――左右だけでなく、前後にもかなり動かれていますよね。

藤田 そうですね。僕はかなりポジションを変えるタイプなので、左右だけでなく、状況によっては大胆に後ろに守ることもあります。ただ……それがハマることなんて実は半々ぐらいで。「ああ、いつもどおりのところで守っていればいまの打球は捕れたやん!」って思うときも何度もあります(苦笑)。

 でも一方で逆にそれがメチャメチャハマるときもあるので、いかにその5対5ぐらいの比率を8対2とか、9対1とかにできるかが僕の長年の密かな目標ではあるんですけど。



――横浜・DeNA時代からポジショニングを大胆に変えていました。

藤田 ここまで動くようになったのは楽天に来てからかもしれないですけど、横浜のときからそういったことも常に意識してプレーはしていました。それに当時は仁志(敏久)さんがいて、本当に頻繁にポジションを変えていたんですよね。「あっ、抜けた」と思った打球でもいつの間にかそのボールが来るところにいたりとか。

 そういった先輩のプレーを真近で見てきていることもいまに生きているのかなとは思っています。それに僕は肩も強くないし、守備範囲も広くない。そんな僕がプロの世界で勝負していくのにはやっぱり頭をフル回転させたポジショニングだったり、ひとつひとつのプレーで創意工夫してやっていくしかないんですよね。

――そんな創意工夫の中で藤田選手のもう1つの大きな武器とも言えるのが“捕ってからの速さ”が挙げられると思います。いわゆる「当て捕り」のグラブさばきの技術はどうやって身に付けてきたのでしょうか。

藤田 それも肩が強くないだけにどうしたら早く放れるんだろうと突きつめていったら、自然とそういう捕り方になっていったんですよね。僕は薬指と小指の中間あたりでボールを受けることが一番多いんですけど、そうすることによってグラブを出した際に手の平より前にある分、素早く打球をグラブに当てられるんですよね。コンマ何秒の違いかもしれないですけど、少しでも早く投げるための僕なりの工夫というか。

――二遊間コンビを組む松井稼頭央選手とは併殺プレーをはじめ、守備面でお2人の間で何か決まりごとみたいなものはあるのですか。

藤田 話すのはほとんどがポジショニングのことですね。やっぱり、併殺を取るときというのはお互いがどこにいるか分かってないとボールも投げられないですから。だから「ここはランナーの足も考えてこのあたりに僕は守っていますね」とか、逆に稼頭央さんの方からも「俺も少しベースから離れるから、ちょっとゆっくりめにトスしてくれよ」というような話はよくしていますね。

――二塁を守っていて一番難しい場面はどんなときですか。

藤田 ランナーどうこうというよりは、正面に緩いゴロが飛んできたときですかね。速ければボールの勢いを利用して次のプレーにいきやすいんですけど、それができない。本当に二塁手泣かせ、内野手泣かせなのが正面のゆるいゴロだと思います。

――そういったボールにはどうやってアプローチしているのですか。

藤田 人工芝か天然芝でも違ってくるんですけど、速いゴロ以上にまずは確実に1つのアウトを取ることを心がけています。ランナーがいるときは無理して併殺を狙いたくなるときもあるんですけど、そこは周囲の情報を目で追いながらベストと思われるプレーを選択しています。

――それが藤田選手がプレーする上で重要視している「周辺視」と呼ばれるものですか。2つのボールを同時に両手でキャッチする練習をされている場面もよく目にします。

藤田 そうです、そうです。あの練習は周辺視を広げるためにやっているものです。瞬時に思っているところに手を出せるか、目と手の距離が合っているかを確認するために。トレーナーさんに投げてもらうタイミングも変えてもらったり、ワンバウンドで投げてもらったりとかしてもらってやっています。

2つのボールを同時にキャッチする周辺視を鍛えるトレーニング



――効果は出ていますか。

藤田 出ていると信じて(笑)。それでも三塁にランナーがいるときはそのランナーを見ながらプレーしないといけないので、そういった場面での視野は広がったかなと。あとはこの練習で自分の中で余裕みたいなものは生まれたかなとは思っています。

ジャンピングスローは「浅田真央」を参考に!?


――鉄壁の守備が生み出された藤田選手のバックボーンをもっと知りたいのですが、もともと守備は小さいころから好きだったんですよね。

藤田 好きでしたね。ずっとグラブとボールだけを持っていた記憶しかありません。だからいまもあんまり打てないんでしょうけど(笑)。

――幼少時はお父さんが用意してくれた鉄板に毎日のように「壁当て」をされて練習していたとか。

藤田 そうですね。よく跳ね返るからと父親が持ってきてくれて、本当に毎日やっていましたね。あれからいったい何十年経つか分からないですけど、いまだにやっていますからね、壁当て(笑)。これが僕の二塁守備の原点というか、何十分も中腰の姿勢で投げ続ける練習もいまに生きているのかなと。それにそういった遊びの延長戦上にも技術を高められるヒントってありますからね。

――ヒントと言えば、藤田選手の得意プレーでもあるジャンピングスローは、フィギュアスケートの浅田真央さんのトリプルアクセルを参考にされているというのは本当ですか。

藤田 よく調べました(笑)。確かに参考にさせてもらいました。どういうことって思われるかもしれませんが、しっかり軸で回る大切さというのはフィギュアスケートも野球も同じなのかなと。だってあんなにキレイに高く回転して、バランスを崩さずに氷の上で着地できるんですから。絶対どこかに体の軸を崩さずに飛べる技術や重心のかけ方があって。それは直接的ではないですが、野球のプレーにも参考になる部分がたくさんある。

他のスポーツを参考にするなど、技術を高める創意工夫は日頃から怠らない



 ほかにもテニスにしても、男子なら200キロ近いサーブを受ける側はどうやってコンタクトしているのかなとか。あれだけのスピードボールを受けるには動体視力も大切ですが、受ける上でのタイミングの取り方がありますからね。それこそ二塁の守備にも共通するものがありますし、ほかのスポーツを見ているといろんな発見やヒントがあるのが面白いんですよね。

――その姿勢や好奇心が今日の藤田選手を育んできたんですね。

藤田 単純に自分がヘタだったから、もっとうまくなりたくてやってきただけなんですけど。でもうまくなるにはそういった遊び心も必要なのか
なとは思っています。

――他球団の二塁手で藤田選手がうまいなと思う選手はいますか。

藤田 いまだったら広島の菊池(涼介)君ですかね。身体能力もズバ抜けていますし、どこまで追いつくんだっていう野性的な守備をしますよね。しかも天然芝の球場であそこまで深く守れるのは彼ぐらいじゃないですか。僕だったら不安になるぐらいの距離にいたりしますから。

――守備でいまだに不安になることもある?

藤田 ありますよ、いまも不安ばっかりです(苦笑)。もちろん100%の自信を持ってグラウンドに立つつもりでやっていますけど、やっぱり消えない。でもその不安があるからこそ練習をするんでしょうし、これから先もどんなに経験を積んでもなくならないものなのかなと。

――最後にシーズンの抱負を。

藤田 とにかくチームの連覇だけを目標にやっていきたいです。そこにつながる1つの守備であったり、1回の打撃で少しでも勝利に貢献できればと思っています。

PROFILE

ふじた・かずや●1982年7月3日生まれ。徳島県出身。175cm75kg。右投左打。鳴門一高から近大を経て2005年ドラフト4巡目で横浜[現DeNA]入団。同年7月27日の中日戦[山形]でプロ初出場。以降、主に内野のサブとして堅実な守備を披露。12年6月24日に内村賢介とのトレードで楽天入り。二塁のレギュラーとして出場を重ね、副キャプテンとなった13年は二番・二塁に定着してチームの初優勝、日本一に貢献。初のタイトルとなるゴールデングラブ賞も受賞した。
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