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2014 変化球特集

オリックス金子千尋 金子流変化球の奥義を語る

 

新しい変化球については「漫画レベルはあるものの、現実的には球種はもう増えない」と金子



新球種はもうない!?


──昨オフは、新たにパワーシンカーを習得しました。

金子 精度の面でいうと、僕が持っている変化球の中では低い方なので、あまりたくさん投げる球ではありません。絶対必要な球かと言われたらそうでもないですし、でも、自分の中では投げたい球ではありますね。

──なぜ取り入れようと?

金子 シンカーは、基本的にはサイドスローの投手がよく投げる球です。もちろんオーバースローでもソフトバンクの攝津(正)さんや、ロッテの石川(歩)君が投げていますが、投げている選手が少ないので、投げてみたいと思いました。

 また、メジャーにあこがれがあるわけではないですが、その球種を投げる投手(バーランダー[タイガース])がいて、環境、ボール、手の大きさとかいろいろな条件が重なって投げられると思うんですけど、でも、同じ人間なんで投げたいなというところから、その球を投げるようになりました。僕の中でシュートとストレートはあまり変わらないんですけど、シュートよりも変化の幅が少し大きく、スピードも少しだけ遅いイメージです。

──やはり、球種は多い方がいいのでしょうか。

金子 その日の調子によって使える、使えないが多少あるので、多いにこしたことはないと思いますね。ただ、もう増えないとは思います。いろいろ考えていますけど、さすがに新しい変化の球はないですね。漫画のレベルではありますけど(笑)、現実的には難しいのかなと。

同じフォームで投げる


──球種も多いですが、一個一個の精度が高いところが金子選手のすごいところ。頭で考えたとおりにボールは行くようになるものですか。

金子 コントロールに関しては、いいときは投げたいところに行きますね。ただ、変化の大きさやスピードを変えることはありますけど、変化する場所を変えることはさすがにできません。精度が高いと言われるのはすごくうれしいことで、さらにそうありたいというのはあるんですけど、変な話、そこに投げるための投げ方をしているので。

──計算し尽くされた投げ方だと?

金子 計算というわけではなく、僕らはそこに投げる練習を常にしているわけです。コース、高さなど、バッターが一番打ちづらい場所に投げる練習をしているので、それをそのまま試合でやっているだけです。同じ投げ方をして、同じところに投げるという意識を常に持っています。あとは「そこに投げておけば大丈夫だ」と思うようにしています。

「そこに投げなきゃダメだ」と思うとどうしても力みが出てくるし、ネガティブな方に気持ちが行くじゃないですか。でも、「そこに投げておけば大丈夫」と思えば多少余裕が出てきます。最悪、ボールに外れればOKで、甘く入りさえしなければいい。そして、手先の感覚ももちろんあるんですけど、そこだけでコントロールしないということですね。

──まずはフォームということ?

金子 そうですね。手先でやろうと思えばできるんですよ。ただ、そうすると僕の場合はヒジに負担がかかるので、ケガにつながることが多くて。昨年はヒジを故障してオープン戦で投げずにシーズンに入った経緯があるので、できるだけヒジに負担を掛けたくないんです。そう考えたらフォームを固定させるしかないのかなと思っています。

──頭で考えその通りに体を動かすのは容易なことではありません。でも、金子選手の場合はそれができる。

金子 ケガを多くしたことでリハビリの期間も長かったですし、自分の体をコントロールしないとダメだなと思って。1年目も右ヒジのケガ、2011年に右ヒジのネズミを取る手術をして、12年も右ヒジのじん帯が炎症を起こして、自分の体と向き合う時間が増えたことでいい意味で体に敏感になったというか。こういうふうに動かせばこうなるということを常に考えていたので。そのおかげで今の自分があるとは思いますね。

──普段から力まず投げているように見えますが、それがコントロールの良さにつながっているのですか。

金子 それよりもボールのキレ、バッターにより近いところで変化させることにつながっているのかなとは思います。それと、バッターのタイミングをズラすというのも多少はあるのかもしれません。力が抜けているように見えるというのは、そのフォームにあったボールを予測してバッターは待っているわけですよね。でも、そのフォームと違った球がくるとタイミングがズレるじゃないですか。そういうのは意識しています。

 本当は120キロくらいの球しかこないようなフォームで投げているけど、実際には140キロのボールを投げたり、そういうふうに意識しています。変化球もそうなんですけど、やっぱりバッティングはタイミングだと言う人もいますし、タイミングをズラすために僕はいろいろなことをやっているので、そこにもつながってくるのかなと思います。どんなにパワーがある人でもタイミングがズレたら飛ばせませんから。

快挙達成ならず……


──5月31日(京セラドーム)は巨人打線を9回無安打11奪三振に抑えました。投げているとき手応えはありましたか。

金子 0対0だったので、1点でも取られたら負け。そういう場面で、さすがにノーヒットノーランのことを考えて投げる余裕はなかったですね。結果的に抑えられただけで、逆に途中で1点でも入っていればダメだったと思います。失投の数もここ何試合かの中では少なかったです。

──強力な巨人打線に対して気を付けたことは?

金子 いいバッター、長打があるバッターが多いですし、1球1球を丁寧に投げることは心掛けましたけど、特別気を付けたことは正直ありませんでした。僕の中のイメージですけど、巨人はいいところに投げた球をヒットにするバッターが多いんですね。坂本(勇人)君もそうだし、長野(久義)君、阿部(慎之助)さんも。でも抑えられたのはめぐり合わせだと思います。僕の調子、コントロールが良くて、逆に巨人打線がいい状態ではなかったので。

──この日の変化球の精度は?

金子 スライダーとチェンジアップのコントロールが良かったです。それと、外れても甘く入るのではなくボールになってくれたので。フォーク、スプリットでも三振は取れましたが、そっちの方が甘い球は多かったです。9回に阿部さんのショートライナーも甘く入ったフォークですし。カウント2─2から投げるボールではありませんでした。

──調子を見ながら使う球を考えるわけですから、やはり引き出しがある方が安心して投げられますね。

金子 そうですね。自分もそうですしリードする方もそうだと思います。でもダメな変化球をまったく使わないのはもったいない。バッターの目線も変わってきますから、ときには使うようにしています。

ストレートあってこそ


必ずしも変化が大きい方がバッターが打ちづらいとは限らない。変化していないことを恐れないでほしい」と金子



──さて、ここまで変化球の話をしてきましたが、変化球もいいストレートがあってこそだと思います。

金子 やはり、どんなに変化球をたくさん持っていても、ストレートを投げる割合が一番多いと思うんですよね。ということは、軸になるのはストレートなんです。ですから、僕は変化球を投げるときも、ストレートと同じフォーム、同じ腕の振りができるように意識しています。

 キャッチボールの段階でストレートと変化球を交互に投げることをよくやっていますね。ストレートと変化球の腕の振りを確認しながら、その中で同じように投げる練習をしています。距離が近いと逆に分からないことがありますから、キャッチボールの少し長い距離で投げる。チェンジアップ、カットボール、シュートなど、一見変化していないように見えるボールも、18.44メートルでは分からなかったことにキャッチボールで気づくことがあるので。

──変化球習得に励んでいる方もいらっしゃると思うので、最後にアドバイスをお願いできますか。

金子 バッター目線で考えましょう。ピッチャーって投げる方がメーンなので、自分から見えるボールの軌道しか頼るところがないんですよね。自分の球を打つことができないので。ただ、そこばかりに注目してしまうと、バッターから打ちづらい変化球が分からなくなってしまいます。ですから、自分がバッターだったらどういう変化球が打ちづらいかを考えたりするのも大事かなと思いますね。バッターから話を聞くのもそうですし。

 あとは、変化していないことを怖がらないでほしい。僕のチェンジアップってただ遅いだけで変化しないんですよ。でも、バッターは空振りしてくれるし、凡打になることもあります。ですから、もう一度言いますが、変化していないことを恐れないでほしいです。必ずしも変化が大きい方がバッターが打ちづらいとは限らないので。自分で見て変化しているということは、変化する場所も早いですし、そういうボールって案外打ちづらくないのかなと、僕は思うので。

PROFILE
かねこ・ちひろ●1983年11月8日生まれ。新潟県出身。右投左打。180cm77kg。長野商高からトヨタ自動車を経て、05年ドラフト自由獲得枠でオリックスに入団。07年途中で先発に転向すると08年から先発ローテーション入り。10年には17勝(8敗)で最多勝を受賞。11年、12年と度重なる故障に悩まされるも、13年は1年間先発ローテを守り切り、最多奪三振のタイトルを獲得。さらには、沢村賞選考基準7項目をすべてクリアし完全復活を遂げた。今季成績は11試合登板4勝3敗0H0S、防御率1.38(6月8日現在)。
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