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内野ノックができる室内練習場にて撮影。寮、グラウンドも隣接しており、最高の環境が整う


取材・文=岡本朋祐 写真=佐藤真一

ノンキャリアでも開花できたその理由

 カーレースの本場・鈴鹿は野球熱も高い。社員の士気高揚。沖縄電力との都市対抗1回戦(7月21日)で、ホンダ鈴鹿の工場は操業がストップする。臨時新幹線で総出により、東京ドームへ向かうのだ。5年ぶり(20回目)の出場に、グラウンドで激励する訪問者も絶えなかった。

 期待を背負うバッテリー3人が、チーム浮沈のカギを握る。いずれも今年がドラフト解禁年。野球人生をかけた一発勝負を迎えるが、いずれも逆境を乗り越えた精神力が、支えとしてある。

 大卒2年目・土肥寛昌土肥義弘(元西武ほか)が親戚に当たり、白球の血筋を持つ。東洋大では4年間で未勝利に終わった。1学年上に千葉ロッテ藤岡貴裕がおり、大学選手権で連覇を達成。絶対的エースが抜けた翌年は大チャンスも、主戦にはなれなかった。最速149キロの潜在能力も制球難で、大事な試合は任せられなかった。4年秋は一部最下位で専大との入れ替え戦にも敗れ、二部降格の憂き目に。

「大学には迷惑をかけた。情けなかったので、社会人では変わった姿を見せたかった」。ほぼ実績のない土肥だったが「球に力がある」と早くから目をつけていたのが、ホンダ鈴鹿・甲元訓監督だった。

「リストが強くて球質が良く、打者が差し込まれる。(力加減を)我慢して丁寧に投げればいい」。指揮官の助言で土肥は覚醒のときを迎え、1年目から登板機会に恵まれた。昨年まで先発2本柱・濱矢廣大が東北楽天入り、前橋泰輔が現役引退し、14年は土肥に新エースが託された。今夏の都市対抗予選では6試合中5試合に先発。文字どおり、東京ドーム切符の原動力となった。

 手元で伸びる直球に、シュートで左打者の外角を引っ掛けさせるのもスカウトが評価する一つ。「順位、球団にもこだわらない。プロへ行きたい」と言う。

 土肥との二枚看板は高卒3年目・守屋功輝。倉敷工高では甲子園経験がなく、入社から2年間も故障や体調不良により、公式戦は1試合のみだった。高卒3年の“ストレート”でプロ入りした濱矢をお手本としており「このままではプロへ行けない」と一念発起。冬場は300メートルトラックで40秒間ダッシュを20本、キャンプでもホテルから球場までの8キロをランニングするなど、徹底的に体を鍛えた。

 公式戦初先発となった3月のスポニチ大会(対大阪ガス)を7回2失点。スリークオーターから最速148キロに、チェンジアップで凡打の山を築いた。この一戦で自信をつけると同時に、甲元監督から信頼を得る。冷静な土肥に対し、守屋は闘志前面の投球が持ち味だ。

 都市対抗予選では土肥をつなぐ守護神として活躍。JR東海との第4代表決定戦では6回一死二塁から救援すると、9回まで打者11人をパーフェクトに抑え「高卒3年目では記憶にない」と甲元が言う、都市対抗出場を決める胴上げ投手に輝いた。

今年指名漏れなら……退路を断った覚悟の1年

20年ぶりの都市対抗優勝へ、カギを握るHonda鈴鹿3人のユニフォーム



 両輪をリードするのは大卒2年目・飯田大祐。常総学院高では1年夏から3年連続で甲子園の土を踏み、中大でも3年春から定位置。神宮を通じてエリート街道を歩んだが、プロ志望届を提出も4年時は指名漏れ。社会人野球に触れると、何が足りなかったのかを実感したという。

「澤村さん(拓一、現巨人)、同期では鍵谷(陽平、現北海道日本ハム)、後輩は島袋(洋奨、現4年)と組みましたが、捕手の力というよりは、すべて投手に助けられていた。つまり楽をしていたんです」

 ホンダ鈴鹿では投手の性格を掌握したリードを心掛け、静の土肥と動の守屋対照的な2人の良さを最大限に引き出した。都市対抗予選ではヤマハとの初戦(第1代表ゾーン)で盗塁3つを刺し、犠牲バントも2度にわたる好フィールディングで阻止。強肩と身軽なフットワークを見せつけられたライバルチームは以後、盗塁企図さえできなかった。

 同2戦目(対永和商事ウイング)ではバントによる右手親指骨折と左眉上を5針縫う大ケガも、離脱せず強行出場した男気を持つ。課題だった打撃も力強さが増し、昨年から臨時コーチを務める今久留主成幸氏(元大洋)は「1つの指示で10個理解でき、行動できる。スローイング、キャッチングとプロでやっていける」と、太鼓判を押す。飯田は入社時、甲元監督に「2年で指名されなかったら野球を辞めます」と退路を断った。人生をかけて、東京ドームに挑む。

 甲元監督が法大から入社した1年目の1994年に優勝、黒獅子旗を手にしたホンダ鈴鹿も、以降は7回の出場で8強入りもない。7月29日の決勝へ進出すれば再び、工場のラインはストップする。カーレースの街を熱狂させ、プロ入りに当確ランプを灯すのだ。
PROFILE
どひ・ひろあき●1990年11月16日生まれ。埼玉県出身。181cm85kg。右投右打。善前小3年時から浦和リトルで野球を始めて以来、投手。大谷口中時代に在籍した浦和シニアでは3年春に全国大会4強。埼玉栄高では白崎浩之(駒大−現DeNA)と同期で、2年秋の県4強が最高成績。東洋大では2年春にベンチ入り。東都通算15試合、0勝1敗、防御率3.07。Honda鈴鹿では今季の入社2年目から主戦。

いいだ・だいすけ●1990年9月19日生まれ。茨城県出身。181cm83kg。右投右打。阿見小1年時から阿見ヤンキースで野球を始め、5年から捕手一筋。阿見中では県大会出場。常総学院高では1年夏に控え捕手、2、3年夏はレギュラーで甲子園出場(いずれも初戦敗退)。中大では3年春からレギュラーで東都通算62試合、打率.222、9打点。Honda鈴鹿では1年目途中から正捕手の座を任されている。

もりや・こうき●1993年11月25日生まれ。岡山県出身。183cm78kg。右投右打。玉島南小4年時から玉南少年野球で野球を始め、中堅手として5年時に県大会準優勝。黒崎中から投手専任。倉敷工高では1年秋に背番号11でベンチ入り。2年秋からエースの立場だったが、3年夏は県大会3回戦敗退。Honda鈴鹿では入社3年目の今季、各種大会で実績を残している。都市対抗東海予選では、異例の胴上げ投手。
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