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今年は8月9日より夏の甲子園で球児たちの熱い戦いが始まる


2014年8月1日、阪神甲子園球場が90歳を迎えた。1924年のこの日、甲子園大運動場として産声をあげた。さまざまな改修を加えながら、現在もプロ野球、高校野球の公式戦が行われる現役球場として、また「野球の聖地」として威風堂々とそびえ立つ。ヤクルトの本拠地で、大学野球の聖地である明治神宮球場の開場は、1926年のことであるから、甲子園は現存する日本最古の現役球場として、未だに伝説を作り続けている。
写真=BBM、AP

生きている球場


 阪神甲子園球場(以下甲子園)はニューヨーク・ジャイアンツなどが本拠地として使用したポロ・グラウンドをモデルに作られている。ポロ・グラウンドの写真を掲載してみたが、いかがだろう? 似ているだろうか。


1891年開場で1963年までジャイアンツ、ヤンキース、メッツなどが本拠地として使用したポロ・グラウンド。甲子園のモデルになった。少し似ているだろうか!?



 現在、このポロ・グラウンドはもう現存してないが、メジャー・リーグの球場には甲子園よりも古いレッドソックスの本拠地、フェンウェイ・パーク(1912年開場)とカブスの本拠地、写真=BBM、APリグレー・フィールド(1914年開場)がある。この2つの球場は基本的にはメジャーの試合のみで使用され、年間約80試合が行われている。

 しかし、甲子園は春の選抜高校野球大会、夏の高校野球選手権大会の2つの大きな高校野球公式大会を行っている。この2つの大会で約100試合、阪神タイガースの公式試合で約75試合。年間180試合近く使用されるグラウンドは世界のどの球場を見ても見当たらない。しかもその使用を90年間も続けてきた中で、芝生やグラウンド、そしてマウンドは、今でも何も変わらぬ姿を残している。

 この現存維持の努力は、阪神甲子園球場を管理している阪神園芸の努力の賜物だ。2年後輩の明治神宮球場は残念ながら人工芝を採用しているが、甲子園は天然芝と内野は全土のグラウンド。ここが変わることなく90年間続いた。この原風景を残しているからこそ、甲子園は特別な存在になっているのだ。

『阪神甲子園球場90年史』(ベースボール・マガジン社)の中で、四代目ミスタータイガースの掛布雅之氏(現阪神タイガースDC)も、現役選手の関本賢太郎内野手も、甲子園の土のグラウンドは「生きている」と語ってくれた。

 土がその季節の気温や湿気を感じながら、野球に適した堅さ、柔らかさを保っているというのだ。この甲子園の土は鹿児島の黒土と、京都の白砂をブレンドしたハーフ土。阪神園芸は、この比率を水はけが変わる季節によって微妙に変えているという。春は黒土5.5、白砂4.5に対し、夏は6対4。雨が多いセンバツ期間中はやや、白砂を多めに。一方、夏は、太陽の照り返しによる眩しさと乾きやすさを防ぐため黒土の配分を多くしている。この細かい配慮があるからこそ、土は生き続け、選手たちが躍動できる場を与えているのだ。

開場当時関係者に配られたという冊子に掲載された建設中の写真。甲子園が作られていく貴重な資料だ



野球の聖地たるゆえん


 この甲子園は「野球の聖地」と言われてきた。ここは野球少年が憧れる場所。毎年行われる春の選抜野球大会と、夏の高校野球選手権大会は甲子園ですべての試合が行われている。この球場で活躍することを夢見て、野球少年たちは高校の野球部に入り、汗を流し青春をかける。なぜ、そこを夢見るのか?

 それはこの球場で多くの名勝負や伝説が生まれているからだ。選手たちが伝説の生まれた球場でプレーできることは、名誉であり誇りなのだ。

 1933年の夏の準決勝、中京商対明石中の延長25回の死闘。69年夏決勝の松山商対三沢の同じく延長18回引き分け再試合。98年夏決勝の横浜・松坂大輔(現メッツ)のノーヒットノーランでの優勝。06年夏決勝の早実対駒大苫小牧の延長15回引き分け再試合などなど、挙げればキリがないくらいの名勝負がこの球場で作られた。

 そして夏の甲子園の場合は、47都道府県の代表が日本一を目指す大会で、お盆の季節も重なり、日本人が故郷への思いを強くする大会でもある。

 プロ野球の阪神タイガースの試合を含めると年間180試合と管理が厳しい状況でも、さまざまな名勝負を90年間変わらない姿(土と芝生のグラウンド)で見守り、作り出してきた。変わらないからこそ「野球の聖地」となった。この聖地、次は100年目を目指す。球場として1年先輩であった旧ヤンキー・スタジアムは2009年に新球場となり最新の球場に生まれ変わった。

甲子園より1年前の1923年開場となった旧ヤンキー・スタジアム。「ベーブ・ルースが建てた球場」として愛されたが、08年シーズン限りで閉場となった



 そこは旧球場の雰囲気を残しているが、あくまでも雰囲気を残しているだけで、感触はもう味わえない。その球場独特の雰囲気は本物でないと感じ得ない。甲子園にも、独特の雰囲気がある。それは90年間の重みでもある。もしこの先新球場を作ることになり、雰囲気を継承したとしても、すべてを受け継ぐのは無理だ。だからこそ、甲子園は永遠に今の姿のままの甲子園であってほしい。
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