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生え抜きスターでキャプテンの鳥谷。「ミスタータイガース」襲名に十分と思われる成績ながら、そう呼ばれない理由を掛布氏が語った



4代目ミスタータイガースこと掛布雅之氏(現阪神タイガースDC)が引退してから、長いことミスタータイガースと呼ばれる選手が誕生していない。現在、生え抜きスターでキャプテンを務める鳥谷敬内野手にもその言葉が与えられていない。そう言われるに十分な成績を残しているのに……。そこで思い切って掛布氏にその辺りを聞いてみた。
取材・構成=椎屋博幸 写真=BBM

「鳥谷君のプレースタイルは物足りない」


 鳥谷(敬)君は今季、開幕当初は背中の張りなどがあって調子が上がらなかったようですが、今はそのことさえ忘れるくらい好調ですね。きちんと成績を残してくる技術はさすがです。守備にしてもきちんと役割をこなしています。

 その中で、少し物足りない部分があるとしたら、すべてのプレーをスマートにこなしてしまうところでしょうか。打撃の場合だと外角に来た球を、レフトへ奇麗にヒットにします。また、守備では三遊間のゴロなどを、ダイビングして捕りに行ったり、というプレーなどはあまり記憶にないですよね。もちろん、ガッツあるプレーは見せていると思います。しかし、そういうガッツあふれるプレーが印象に残らない。それが鳥谷君のプレースタイルなのですが、私からしたら物足りないと感じることがあるのです。

 つまり、激しい首位争いをしている中で、そういうプレーが士気を上げることがある。ですが、彼はそういうプレーヤーではないんですよ。ただ、現在、阪神の日本人選手では鳥谷君以外にもそういうプレーヤーがいない。「ミスタータイガース」という言葉を掛けられる選手が見当たらないのは、そういう部分にあるのではないかな、と思いますね。

「ミスター」の条件


「ミスター」の条件ですか? それは試合の責任を負えるか、否かです。試合のすべての責任を背負える選手でないと務まりません。そういう意味で「ミスター」はある程度、作らないといけない部分もあるんです。本当は彼が入団したときから、球団がそういう方針で育てなければいけなかった。しかし、そこに広島から金本(知憲)を獲得してきた。そして、彼が試合の責任を負う選手になっていきました。その後ろで鳥谷君が育っていきましたから、そういう選手になってしまったのはしょうがない部分があります。

 例を挙げれば、巨人でいうところの高橋由伸君のような存在ではないかな、と思いますね。松井秀喜君(元巨人、ヤンキースなど)がいて、高橋君がいるというような構図。それで松井君がヤンキースに移籍したら、阿部慎之助君が台頭してきてチームの顔になった。高橋君も存在感はありますが、そこまでにはなりきれなかった。

 鳥谷君も同じような立ち位置になってしまったんだと思いますね。本当に打つ方にしても、守る方にしても、素晴らしい選手であることに変わりはないです。ただ、阪神が優勝するためには、気迫あるプレーも時には見せて、チームを鼓舞してほしいですし、試合の責任を負える選手になってほしい。

 具体的にはですね、試合の状況によっては、レフト前に流すのではなく、思い切りホームランを狙う打撃を見せてくれると、絶対に相手チーム、投手は今まで以上に警戒してくるようになる。そうなるとわれわれが形成した85年の「バース、掛布、岡田(彰布)」のクリーンアップに匹敵する怖い存在のクリーンアップ3人組になると思いますね。

阪神だけではなく、プレーでチームの士気を上げる選手が少なくなったと掛布氏は語る



現代野球では「ミスター」はもう出てこない


 一方で、先ほど「ミスター」の話が出ましたが、現代野球で「ミスター」はもう出てこないと思いますね。野球というのは団体スポーツでありながら、個の勝負ができるスポーツでもある不思議なスポーツです。村山(実)さんと長嶋(茂雄)さんが名勝負を繰り広げ、私のように試合の勝敗に関係なく江川(卓)と1対1の勝負をする。そういうわがままが通った時代がありました。チームの勝敗を度外視した個と個の勝負。そこから「ミスター」が作り上げられる。つまり、「ミスター=負けの美学」というものもあったんです。

 しかし、現代野球では「負けの美学」はありません。「チームとして勝つ」ことが最優先で、4番にも送りバントをさせたり、つなぎの4番を置いたりしていますよね。これでは「ミスター」と呼ばれる選手が育つのは難しい。野球は時代とともに変化していきます。昔のチームよりも圧倒的に現在のチームの方が強いでしょう。しかし、今の試合にロマンを感じないのは、試合に勝つことだけにチーム全体がまい進しているから。そこには個性がなくなるのは当然なんです。

掛布氏が鳥谷に期待すること


 そういう時代の中で、「チームが勝つために」という条件で最高のプレーヤーは鳥谷君でしょう。チームが勝つためのバッティングができ、出塁率も高い。そうなると得点を後続の打者が挙げられる機会が増えていきます。それができれば、試合に勝つ可能性が高まりますから。

 そういう意味では、彼は十分以上な働きをしています。ただ、先ほども言いましたが、チームが勝つ以上の、個の勝負にもう少し固執してくれると、チームの士気はさらに上がり、優勝に向けて良い雰囲気になると思いますよ。何も言葉でチームメートを引っ張らなくても、そういう雰囲気をプレーで見せれば、チームは変わるのですから。

PROFILE
かけふ・まさゆき●1955年5月9日生まれ。千葉県出身。習志野高から74年にドラフト6位で阪神入団。1年目から一軍に定着。不動の四番打者となり79、82、84年に本塁打王、82年に打点王に輝いた。三塁手としてダイヤモンドグラブ賞6回、ベストナインにも7回選出され「4代目ミスタータイガース」として愛された。85年には主力として日本一も経験。故障の影響などもあり88年限りで現役引退。以降は野球解説者などを務め、14年から解説者を務めながら阪神タイガースGM付育成&打撃コーディネーター。
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