一瞬、時が止まった。前代未聞、守備妨害での幕切れに、戸惑う選手たち。球審の宣告を確認すると、歓喜の輪がゆっくりと広がる片隅で、ヒザを着く選手もいた。9回表一死満塁、1点死守の前進守備にはそれだけの緊張感があった。
「アウト? アウト?」
秋山幸二監督が球審に確認を取り、マウンド付近へ歩を進めた。ピンチを招いた
サファテが喜びを爆発させながら指揮官の行く手を遮るように抱擁を強要する。これには指揮官も苦笑いで応えるしかなかった。とにかく勝ったのだ。すべてが終わった。
「選手たちと一緒に1年間戦って、日本一になれたことに感謝したい」
極度のプレッシャーを背負って戦ったシーズンだった。昨オフは30億円と言われる大量補強の施しを受け、戦力は万全。ただ、「勝って当たり前」と思われるほどつらいことはない。シーズン中盤から
オリックスとの思いもよらぬ接戦となり、9月17日からの10試合は1勝9敗の大失速で、最後の144試合目に優勝が決まるスリリングな展開だった。
その戦いの中で決断した監督辞任がCSファイナル開幕前日に露見する事態となった。選手たちには日本一を目指す戦いに集中してほしかった指揮官は言った。「日本シリーズは選手個々をアピールする場。存分に力を発揮してほしい」。選手を信じ抜く采配で、個のレベルの高さを前面に出して頂点に立った。
「10回上げられた監督はいないぞ」
シリーズMVPの
内川聖一が監督の胴上げを促した。将として多くを語らず、成長を見守り続けてきた選手たちがいつしか、「頼もしい」と目を細める存在に変わっていた。日本一になった達成感とともに、博多の地で10度、宙を舞いながら、その喜びをかみ締めた。
▲日本一のペナントを手にファンの大声援に応えるナインたち。写真右の内川は5試合で打率.350のハイアベレージを残して最高殊勲選手賞を獲得した
▲左から決勝打を放った松田、孫オーナー、内川。3年ぶりの歓喜に満面の笑みでVサイン
▲左から敢闘選手賞のR.メッセンジャー、優秀選手賞の武田、MVPの内川、優秀選手賞のサファテ、柳田。なお、優秀選手には小社からそれぞれ10万円の賞金が授与された
▲敢闘選手賞を受賞した阪神のR.メッセンジャーには小社社長・池田哲雄よりソニー液晶4Kテレビ BRAVIA KD-55X9200B が贈られた
▲秋山監督をねぎらう王会長。苦しみ抜いた末の悲願達成に2人とも万感の表情を浮かべた
▲3年ぶりに奪回した日本一ペナントを手に記念撮影。秋山ホークス集大成の歓喜の瞬間だった
▲地元・福岡でつかんだ栄冠。試合後もスタンドを埋め尽くしたホークスファンの大声援が鳴り止むことはなかった
写真=湯浅芳昭/早浪章弘/小山真司/高原由佳/内田孝治/高塩隆/石井愛子/荒川ユウジ