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逆風の中で…楽天 大久保博元監督が胸の内を明かす

 



星野仙一前監督の電撃辞任を受け楽天5代目監督に就任した“デーブ”こと大久保博元監督。過去のトラブルからその人事をめぐって異例の反対署名や批判の声が挙がるなど新指揮官に対する風当たりは強い。そんな逆風が吹き荒れる中、最下位に終わったチームをどのように再建していくのか。秋季キャンプで奮闘する新指揮官がその胸の内を明かした。

取材・構成=松井進作 写真=松村真行(インタビュー)、BBM

どんな批判や非難もすべて受け止める


──まずは一番知りたかったことから単刀直入にお聞きします。今回の監督就任に際して、多方面で反対の声も挙がっていますが、そのことについて大久保監督ご自身はどのように受け止められていますか。

大久保 こういう形で僕が監督を引き受けたことに対して、まずは全国の楽天ファンの皆さまにはお詫びをしたいです。なんでこんな男を選んだのかという話ですし、僕自身も、もっと良い人はほかにいるとも思っています。

──その中で監督就任を受諾した理由は?

大久保 もうオヤジ(星野仙一前監督)から言われたからです。ただ、最初に言われたときも僕自身は断っています。勘弁してくださいと。

──それはコボスタ宮城で監督就任会見を開いた10月14日のことですか?

大久保 そうです。9月中から報道ばかりが先走っていましたけど、僕が正式に監督就任のオファーを受けたのも10月14日でしたから。その日も僕はフェニックス・リーグで指揮をするために宮崎にいて、9時ぐらいにサンマリンスタジアム(宮崎)に着いたら球団から電話があって、「今から大至急(仙台に)来てほしい」と。それだけを伝えられて、もうバタバタの状況でコボスタ宮城に着いたんです。そうしたら「星野監督が待っています」と言われて。

──そこで星野監督の口から正式に言われたのですか。

大久保 はい。いつもオヤジに呼ばれるときは怒られてばっかりだったので、また怒られるのかなと気を引き締めて行ったらニコニコしながら「おめでとう、お前が監督をやるんだ!」と。

──その瞬間はどんな思いが込み上げてきましたか。

大久保 どんな思いどうこうよりも、開口一番「僕には無理です」とはっきりと言いました。

──星野監督の反応は?

大久保 オヤジからは「いいんだ、12球団で12人しかいないんだぞ。お前がやるんだ」といったようなことをずっと言われて。しばらく押し問答が続いて。それで僕が「じゃあ監督が僕の後ろ盾になってくれるんですか?」と聞いたら、「お前の後ろにいつもいる」と。その一言を聞いた瞬間ですよね、実際に決まったのは。ただ、それでも頭と心を整理するのに時間はかかりました。

 僕はご存じのとおり、西武時代に野球界では永久追放と言ってもいい解雇のされ方をした人間です。そんな男が監督をやっていいのか、やる資格があるのかと。だけど、僕にとって星野監督はオヤジと慕い、言ってみれば親同然みたいな存在なんです。その親が覚悟を持って一緒にやろうじゃないかと言ってくれたことに対して断る理由はもう見つからなかったですし、オヤジの野球を継承して次につなげていくことが僕に課せられた役目でもあるんじゃないかと。

──星野監督の存在がすべてにおいて大きかったわけですね。

大久保 そうです。僕にもう一度ユニフォームを着る気持ちにさせてくれた星野監督、そして楽天球団に報いるためにも批判も含めてすべての矢面に立ってやろうと。本当にその純粋な思いが自分の背中を押してくれましたし、負けたら僕がたたかれればいいだけのことで、選手たちじゃなくて済む。それも最終的に決断に至った理由の1つです。

──そんな覚悟の中での船出となったわけですが、大久保監督がこれから目指していく野球は具体的にどういったものなのかを教えていただけますか。

大久保 基本は星野監督がやってきたものをベースに、バッテリーを中心にした守り勝つ野球です。本当の意味での常勝軍団になるには、スランプのある打撃ではなく、守備をしっかりしていくことの方が大切だと僕は考えています。

──岡山・倉敷での秋季キャンプでも、守備の連係プレーの確認に多くの時間を割いていますね。

大久保 この秋季キャンプは若手選手の体力強化や底上げのほかに、さまざま場面での守備シフトや攻撃のバリエーションを作り上げる期間でもあるんです。「いかに相手を考えさせ、困らせ、意表を突けるか」。それをこの期間で徹底的に練習していければと思っています。


コボスタ宮城での秋季練習、岡山での秋季キャンプで指揮を執る大久保監督。選手たちとの対話を大切にしながら一致団結をチームの大きなテーマに掲げた



──また全選手をポジションごとにすべて「順位付け」する方針も打ち出していますが、そこにはどんな狙いがあるのでしょうか。

大久保 現役時代に僕自身が二軍での生活が長かったのと、二軍で5打数5安打4打点の成績を残しても一軍に上がれなかった。「じゃあ、自分はどうすれば、いったい誰を抜けば一軍に行けるのか」が分からなかったんですよね。その経験があって導入しようと。「いまの自分はキャッチャーとして何番目なのか、どれぐらいの数字を残せばランクアップ、上に行けるのか」をはっきりさせる。数字って目的地だと思っていますし、そこを明確にすることで選手たちは自分の課題により取り組むようになりますから。

 それに紅白戦(11月7日)のメンバーも選手たちにドラフトで決めさせました。赤組の監督は後藤光尊、白組の監督は藤田一也。彼らに控えも含めて好きなように自分たちのチームに欲しい選手を取らせた。そこで最初の方に呼ばれるような選手と最後まで残る選手、その評価は面白いことにだいたい一緒なんですよ。そこでも自分の力やチーム内の評価も分かる。もちろん、その方法が合う選手と合わない選手も中にはいますので、各選手の個性や性格も見極めながら、たくさん話をしながらやって進めていきたいと思っています。

──確かにここまでの秋季キャンプでは朝のアーリーワークから夕方の練習終了まで、一人ひとりの選手と大久保監督が長い時間にわたって対話する場面が本当に多く見られます。

大久保 それはやっぱりウチは若い選手も多いですし、まずは話さないと何も分からない。とことん話し合って、理解し合ってからでないと前には進めませんからね。あとは、この秋季キャンプの大きなテーマが一致団結すること。共に戦い、協力し合うことが何よりも大切だと思っています。ここで言う協力というのは各選手が冷静に周囲を見て、いま何をすべきかを考えて自分の責務をしっかり果たす。それができるようになれば、チーム力は確実にアップしますし、どんな厳しい状況下に置かれても内面的にもホワイトゾーンで戦えることができますから。

──ホワイトゾーンですか。その部分について、もう少し詳しく教えていただけますか。

大久保 ゾーンって究極の緊張状態のことを言うんですけど、そこでどんな劣勢の場面でも良い緊張で戦えているのがホワイトゾーン、その逆がブラックゾーンです。もちろん緊張は誰でもしますけど、その中で良いメンタルで力を発揮できる状態(ホワイトゾーン)にしっかり入れる練習をいまやっているところです。

──少しずつですが、大久保監督がいまやろうとしていることが見えてきた気がします。その中で大久保野球のキーマンになるのはどの選手だと思っていますか。

大久保 それはもうチームのためとか、カッコつけて言っているわけでもなく、本当に全員なんですよ。まだまだ時間がかかる選手もいますけど、それでも各選手がスカウトの方たちに見い出され、光るものを評価されてこの世界に入ってきているわけですから。キーマンは誰とかいないです。全員が優勝するために必要な選手たちだと思っています。

星野監督が休養した期間は一軍でも17試合で采配を振るった。闘将イズムを受け継いで最下位からの逆襲を誓う



黄金ルーキー安楽智大は二軍スタート


──昨年のドラフト1位ルーキー・松井裕樹投手に続いて、高校NO.1右腕の呼び声も高い安楽智大投手もチームに加わります。彼の育成プランについてはどのような考えをお持ちですか。

大久保 まだ実際に自分の目で見てないから想像の話になってしまうんですけど、現段階では二軍でじっくり育てていくつもりです。1年目はプロの世界に慣れるだけでも大変ですし、まずは土台を作らせます。数年後にはチームの柱となってもらえる素材だと思っていますから、焦らずやっていってもらうつもりです。

──高卒1年目から一軍デビューさせ、先発ローテに組み込んだ松井裕とは育成法は違ってくると。

大久保 松井裕の場合も最初は二軍でという話もあったのですが、入団前から話題性も大きくて、さらに一軍には百戦錬磨の星野監督や佐藤(義則)さんもいたので、まずはキャンプだけは一軍で、という話になって。そうしたら思いのほかいいぞということになって、一軍であれだけ投げさせることになったんですよね。ただ、それも星野監督だったからできたことです。あらためてすごい監督だなと感じた1年でしたけど。

──それは具体的にどんな部分で?

大久保 懐の大きさというか、仮に負け覚悟でも星野監督は自分の責任で「もう1イニング、もう1試合だ」とチャンスを与える。それは松井裕に限らず森(雄大)もです。なぜそこまでするのか。すべては今年だけのことを考えているのではなく、将来の楽天を見据えてです。

 真の常勝軍団を作るためには痛みは必ずともなうんですけど、それをすべて自分の責任でやってしまう。僕に同じような采配ができるかと言ったら絶対にできないですし、本当にいつも選手やチームのことを考えて先頭を走っていた。だからこそ、そんな星野監督が残してくれたものを今度は僕がしっかり受け継いでいかないといけないわけですから。自分のすべてを懸けてやっていきたいと思っています。

──2015年のペナントレースで戦うパ・リーグの監督には大久保監督をはじめ、田邉徳雄監督(西武)、伊東勤監督(ロッテ)、工藤公康監督(ソフトバンク)と元西武出身者の4人が指揮を執ることについては。

大久保 それに関しては僕はずっと補欠でしたし、比べるのもおこがましいので、胸を借りるつもりで戦っていくだけですね、本当に。

──最後に日本一奪回を目指す新シーズンへ向けての決意を聞かせてください。

大久保 とにかく一致団結して日本一をもう一度獲りにいきます。あとは、われわれは東北のチームですから、震災で亡くなった方々の思いも背負っていることをどんなときも忘れることなく、力の限り1試合、1試合を全力で戦っていきたいです。

 かつて監督就任前にこれだけの批判の中で船出した指揮官はいただろうか。いまも大久保監督就任に対して反対派の声は根強く、その声は勝っても消えることはないかもしれない。それでもこの大役を引き受けたのは公私ともに“オヤジ”と慕う星野前監督の存在、絶望の淵にいた自分にもう一度ユニフォームを着させてくれた楽天への恩返しをしたいという純情な思いがある。逆風の中で孤独な戦いに旅立った大久保監督の未来にはどんな結末が待っているのか。47歳の新監督の野球人生を懸けた挑戦の日々がいま幕を開けた。

PROFILE

おおくぼ・ひろもと●1967年2月1日生まれ。茨城県出身。水戸商高から85年ドラフト1位で西武入団。トレードで巨人入りした92年に15本塁打。95年現役引退。野球解説者やタレントを経て、2008年に西武のコーチに就任して日本一に貢献。12年から楽天で打撃コーチ、二軍監督を歴任して楽天5代目の新監督に就任した。
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