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松坂大輔が日本球界復帰を決めた理由とは

 

今季は“保険”扱いだったが、黙々と役割を果たした


今季、メッツに在籍して34試合に登板、3勝3敗1セーブ防御率3.89という成績を残した松坂大輔。日本球界復帰に傾いた理由を探る
文=石田雄太 写真=AP

なぜ、松坂は先発にこだわり、日本球界復帰も視野に入れているのか?


 苦しい1年だったに違いない。それは、思うような結果を残せなかったからではない。むしろその逆で、彼が苦しかったのは、これほどまでに結果を問われないとは思いもしなかったからだ。

 今シーズンの松坂大輔、開幕前のステータスはメッツとのマイナー契約。メジャーのキャンプへは招待選手として参加していた。そして、オープン戦で結果を残し、開幕メジャーは間違いないと松坂自身も信じていた。しかし開幕直前、彼はまさかのマイナー行きを通告される。当時の松坂はこう言っていた。

「競争であって競争ではない、という感じですかね。自分がいい状態であっても、いいものを出しても、それが判断材料にならないというのが、今の僕の立場です」

 あえてベテランという言葉を使うが、メジャーの世界では、マイナー契約のベテランは、あくまでも“保険”でしかない。結果を残しても、だからメジャーに上がれるというものではないのだ。そこに公平な競争など、最初から存在しない。たとえ松坂が圧巻の結果を残したとしても、さらにメジャー契約の選手がどれほど不調だったとしても、その選手が元気で試合に出られる以上、“保険”は必要とされない。それが契約優先のメジャーのロジックだ。

 松坂の“保険”扱いは、メジャーに上がってからも続く。先発がいなくなれば、スポットスターターとして先発を命じられる。そこで結果を残しても、次のチャンスにつながるわけではない。穴を埋めてくれてありがとう、で終わりである。

 ブルペンでも“保険”扱いは続いた。結果を残せば先発のチャンスが巡ってくるというエサだけを目の前にぶら下げられ、過酷な中継ぎでの登板を強いられる。いつ来るか分からない出番に備えて1試合の中で3度も4度も肩を作り、結局は投げなかったなんて日はざらにあった。やっと巡ってきた中継ぎのマウンドで結果を積み重ねると、今度は首脳陣から「ダイスケは先発よりも中継ぎに向いている」などと言われる始末。これでは、どう頑張ったらいいのかさえ、分からなくなってしまう。

 だから、モチベーションを保てない、などというヤワな話ではない。松坂は“保険”という立場に耐えながら、チームのムチャな要求に応えてきた。しかし、今の松坂のヒジはそれほど万全ではない。ただでさえ肩、ヒジを温めるのに時間を要する松坂は、ブルペンでかなりの球数を投げていた。それを1試合で3度も4度も繰り返し、毎日、そんな日が続けば、やがてヒジが悲鳴を上げるのは無理もなかった。

 そんな保険扱いに振り回されて、肩、ヒジを酷使してしまっては、投手生命は短くなるだけだ。1年でも長くマウンドに立ち続けたいと考える松坂にとって、35歳になる来シーズン、アメリカだけでなく日本という選択肢が浮かんできたのは、ピッチャーとしての自分を守るためだった。先発にこだわるのもプライドといった類のものではなく、自分自身のヒジの発する声に耳を傾けた末の結論なのだ。

 だから今の松坂は日米問わず、お前に先発を任せる、と約束してくれるチームを探している。そして、今の彼のボールはメジャーでも日本でも十分、バッターを圧倒できる。そんなことは、松坂をナマで見れば野球好きならすぐに分かることだ。
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