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11月12日から開催された「2014 SUZUKI 日米野球」に広島からは侍ジャパンの一員として前田健太菊池涼介丸佳浩が出場。この3人は広島の中核を担う最重要選手だ。世界との戦いで彼らは何を見せ、何をつかんだのか。3選手の侍ジャパンでの躍動をリポートする。

前田健太〜エースの自覚。メジャーも驚愕〜


 静まり返った京セラドームに、ビール販売員の元気な声だけが響き渡る。11月12日、日米野球開幕戦。3万3003人のファンが、近い将来のメジャー移籍が噂される前田健太の一挙手一投足を、固唾を飲んで見守った。

 結果はご存じのとおり。5イニングを任された日本のエースは、初回に二番・カノに安打を許すなど、二死一、三塁のピンチを招いたものの、後続を断ち、散発2安打無失点2奪三振の、ほぼパーフェクトな内容でMLBオールスターを封じ込めた。

「初戦なので良い形で投げ終えてよかったです。初回はちょっと球数が多かったですが、2回以降は自分のリズムで投げることができました。日本のとき(レギュラーシーズン)よりも変化球が多くなってしまいましたが、結果が出てよかった」

▲初戦、5回2安打無失点と好投した前田。あらためて、その実力を示した



 本心は渾身のファストボールでの勝負。しかし、小久保裕紀監督が「日本のエースとしての自覚が表れていた」と評したように、個人的な勝負よりも勝利を最優先に考えた丁寧な投球が光った。その中でもメジャーを驚愕させたのが、2つの三振ではないだろうか。「日本のボールよりも動くので、いつもは投げられないボールを投げることができました。(ピッチングの)幅が広がりました」。初回、二死一、三塁では五番のプイグを相手に大きなチェンジアップで、5回一死からはエスコバルの足元に鋭く曲がり落ちる、151キロのツーシームで空振り三振を奪った。2013年のWBCでも経験した、ローリングス社製の公式球との相性の良さをあらためて証明したかっこうで、小久保監督の信頼をさらに深めた。

 一方、MLBオールスターを率いるファレル監督も「マエダはバラエティーがある球種を使ってタイミングを実にうまく外してくる。ストライクゾーンで勝負できる素晴らしい投手」と脱帽。カープファンには歯がゆいかもしれないが、メジャー各球団が無視できない存在となった。

菊池涼介〜指揮官の想像を超えた重要なピース〜


 菊池涼介と小久保裕紀監督には、欠かせないエピソードがある。侍ジャパンの初陣となった昨秋の台湾遠征直後、収穫を問われた指揮官は、真っ先に菊池の守備を挙げ、自身が目指す「守備力と機動力を重視した野球」の中心に据えたい意向を示していた。しかし、13年の打撃成績は.247。いくら守備力に秀でているとはいえ、これではトップチーム(台湾遠征は26歳以下で構成)に招集するには説得力に欠ける。チーム解散時、「また呼ぶためにも、2割7分は打ってくれ」と懇願したことを小久保監督は明かしてくれたが、菊池の進化はそんな指揮官の想像をはるかに超えていた。

 今季の打率.325、188安打はともにセ2位。守っても昨季自らが樹立した528補殺の日本記録を7つ更新するなど、攻守にレベルアップした姿を見せた。再招集、さらにはセ最多安打で、右打者の安打記録を塗り替えた山田哲人をファーストに追いやっての正セカンド起用は当然。小久保監督の厚い信頼を受けて、「シーズンと同じようにかき回す」と、日本代表がまるで自らのホームのように、ノビノビとプレーした。

 特に守備。第1戦の3回一死からゾブリストの一、二塁間を襲う打球を全身をめいっぱいに伸ばしてグラブに収めると、クルリと一回転して華麗に一塁送球。スタンドからどよめきが起こったこのプレーは、MLB公式サイトでもすぐに紹介され、絶賛された。第3戦では(4投手の継投による)ノーヒットノーランのかかった9回一死、サンタナの強烈な打球を逆シングルでグラブに収め、事もなげに大記録をアシスト。日本でもたびたび話題に上る守備範囲の広さにはMLB・ファレル監督も驚きを隠せず、「打球が出た瞬間の反応の良さを感じた」と舌を巻いた。

▲攻守に冴え渡るプレーを披露した菊池。能力の高さはさすがだ



 打っても第2戦で岩隈久志から2安打など、先発出場した第3戦までで4安打。二番・セカンド菊池は、小久保ジャパンに欠くことのできない重要なピースとなった。

丸佳浩〜ジワリ、ジワリと重要な存在に〜


 開幕戦を勝利で飾った前田健太や、全米にその守備が知られるところとなった菊池涼介のように、ビッグインパクトは残せていない(第4戦終了時点)。4戦で2度の猛打賞を記録した柳田悠岐、小久保裕紀監督が四番に据える中田翔が、同じ外野手にはおり、これに糸井嘉男を加えた3人が開幕2戦目までの先発オーダーで、丸佳浩に期待される役回りは、現段階では代打や守備固めなどを求められるスーパーサブ。慣れないポジションに「やるべきことをしっかりとやる」と出番を待った。

 チャンスが訪れたのは第3戦。両足に爆弾を抱える糸井が2戦無安打と振るわず、短期決戦ゆえに小久保監督が早々に決断。七番・センターで先発の機会をつかむと、4人の継投でノーヒットノーランを達成したこの試合では結果を残すことはできなかったが、2戦連続の先発出場となった第4戦ではマルチ安打で、やはり打撃面をアピール。05年にはメジャーで18勝を挙げたこともあるカプアーノから5回にしぶとくセンター前に落としたヒットも、7回に左キラーのブレビンスから、鮮やかにセンター前へと弾き返したヒットも、強引さがなく、素直にバットを出していたことに好感が持てる。「手元で動く」ファストボールを操るメジャーの投手たちを攻略する準備が整っているというわけだ。

▲懸命なプレーを続けた丸。ここで学んだことを必ずチームに還元してくれるはずだ



 侍ジャパンには昨秋の台湾遠征に引き続いての招集だ。このときも3戦目のみの先発起用(残り2戦は途中出場)と、やはりスーパーサブであったが、貴重な国際経験を積み、今季は初めてのフル出場。打撃主要3部門でキャリアハイの成績を残し、打率は初の3割超えと、菊池涼介と同様に、指揮官の想像を超える進化でほっとけない存在に。走っては13年に29盗塁で盗塁王、守っても13年から2年連続でゴールデングラブ賞を受賞しており、守備力と機動力を重視する小久保ジャパンにはうってつけの存在。ジワリ、ジワリとその存在価値を高めている。
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