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その一挙手一投足がプロ野球史に残る記録となる。中日の現役レジェンド投手・山本昌。49歳25日で挙げたNPB最年長勝利と、50歳となる来シーズンへの思いを語ってもらった。
取材・構成=吉見淳司 写真=荒川ユウジ、BBM

来季はローテに入る


──まずは率直に、3試合で1勝1敗、防御率4.50という今季の成績をどう考えていますか。

山本昌 いや、もう全然ダメだと思います。春先は結構調子が良くて、今年は頑張れるんじゃないかなと思ったんですけど、なかなかそうはいかず……。もうちょっとやれたんじゃないかというのが正直な感想です。カットボールという新しい球種にチャレンジしたんですけど、ちょっとフォームを崩してしまいました。本当に残念ですね。もったいなかったとは思いますが、失敗しながらもいろいろ勉強して、将来に役に立つ経験ができたと思っています。それでも一つは勝てて良かったな、というところですね。

──新球にトライするリスクも覚悟していた。

山本昌 覚悟のうえで行きましたし、自分の中では「ヒジが下がらないように」とか「腕が遠回りしないように」だとか、十二分に気を付けていたつもりです。しかしその中で、ちょっと曲げたくなって、知らない間にヒジが下がっていて、腕が遠回りしてしまっていたんじゃないかと。それが真っすぐにも影響して、悪いクセを直すのに3カ月かかってしまいました。

──習得していれば、さらに投球の幅も広がっていた。

山本昌 ここまで気を付けていれば、よほど大丈夫だろうというのが僕の考えでした。でも、習得できなかったら仕方ないですね。今回は僕が間違っていたと思います。

──ファームでの5月10日のソフトバンク戦(雁の巣)では3回9失点。このあたりが最も厳しい時期でしたか。

山本昌 そうですね。本当に自分でもどうなっちゃったんだというくらい。4月くらいからおかしくなって、そのころが一番泥沼でした。

──その苦しい時期を乗り越え、9月5日の阪神戦(ナゴヤドーム)で今季一軍初登板初勝利を挙げました。8月にチームは月間20敗と苦しんでいた中での登板でした。

山本昌 僕個人としては、「まずはチームが勝ってくれれば」「ゲームを壊したくないな」という気持ちでした。相手の先発は能見(篤史)君で、阪神も上位争いをしていましたからね。最悪でも同点で、大差をつけられないように意識していました。「勝てなくてもいい」というわけではありませんが、「勝つ確率は低い」と思っていて、とにかく相手を勝負に引きずり込むことしか考えていませんでした。「何とか後の投手につないでチームが勝ってくれれば」という中で僕に勝ちが付いてくれたのだから、100点満点です。

──平常心で臨めましたか?

山本昌 ダメなら仕方がない。辞めるしかないという気持ちでしたね。たまたま勝てたので来年もプレーできますが、負けていたら引退していたでしょうね。「一生懸命やってきたから、白黒しかない」と開き直れました。

今季は新球習得に失敗し、一軍合流は9月と出遅れたが、「将来に役に立つ経験ができた」と来季への糧とするつもりだ(写真=平山耕一)



──個人的には今季最終登板の巨人戦(同)も印象的でした。結果的には5回3失点で敗戦投手となりましたが、100キロ前後のカーブでも相手打者を詰まらせているように見えました。

山本昌 ああ、あのときはいい投球ができましたね。調子は悪くなく、最後に逆転されてしまいましたけど、ああいうピッチングができるんだ、と。あれを来季、5試合でも10試合でも続けていければ、勝ち星も自然とついてくると思います。9月の終わりにできたことが、来年の4月にできないわけがないと信じて。もちろんチームのためにプレーするのですが、勝つことでチームに貢献できますから。半分の期間は先発ローテーションに入っていないといけないと思っています。

──今年は中8日での登板が続きましたが。

山本昌 ローテに入るなら中6日で十分に投げられると思っています。今回は終盤で試合が空いてしまい、登板日も空きましたけど、シーズン序盤で日程が詰まっているときには中6日で大丈夫。ローテに入るつもりで頑張らないと、プロ野球選手じゃないですから。

メジャー記録は通過点


──来年でプロ32年目。80周年を迎えたプロ野球の半分近くを過ごしていることになります。日本ハム大谷翔平選手の二刀流であったり、もちろん山本昌選手のように高年齢で活躍する選手が現われたりと、日本の野球のレベルが急激に上がっていると感じるのですが。

山本昌 もちろん上がっていますよ。今は高校野球を見ても技術が上がっていますし、選手の体も大きくなっていますからね。情報量が増え、携帯でもいろいろなことが調べられる時代。指導者の方もいろいろないいものを、どんどんどんどん吸収して、それを練って、さらに世に出して、という作業を日本全国でやっているわけですからね。指導法もすごく進歩しているでしょうし、練習も昔のように、根性、根性ではなくて、ムダじゃないことが多くなった。もちろん、ムダにもいいことはたくさんあったんですけどね。今はそういう贅ぜい肉を省いて、直接身になることをしているのですから、レベルは上がっていると思います。

──その中で、山本昌選手もアジャストしながら実績を積んできました。

山本昌 僕は残りカスの燃料で投げているだけ、という感じですね(笑)。ただ、昔の野球から今の野球への過渡期を過ごしてきましたので、昔は何が良かったのか、今はこれも本当にいいな、ということをミックスし現役を続ける価値があるのなら、もう1年プレーしたいですね。僕の勝ち星が一つでも多ければ多いほど、多少は優勝争いで有利になるでしょうし、そういうところで貢献していきたいですね。

「自分としては『引退』とは言いたくない。成績が良ければ『もう1年』となるし、そうなるようにしないと」と語る



──来季に1勝を挙げた時点で、ジェイミー・モイヤーが2012年に残した、49歳151日での勝利投手というメジャー記録を抜きます。

山本昌 日本とアメリカの違いはありますけど、参考記録としてとらえています。ただ、それを目標にしてしまうと、「15試合は投げたい」とか、「5勝はしないといけない」というこれまでに話してきたことが覆されてしまうので、やるからには通過点として考えたいですね。周りの方が口にするので意識はするでしょうが、十分意識しながら、頑張っていきます。

──ちなみに当時、最速127キロということでした。

山本昌 それは大丈夫(笑)。僕の方が速いと思います。

──ゆくゆくはサチェル・ペイジの59歳2カ月というメジャー最年長出場記録も……。

山本昌 それはいいです。とんでもないですね(笑)。

はみ出し捜査メモ
現役記録製造機山本昌が来季に達成する記録は?

 すでに最年長出場記録を達成している山本昌。そのため、来季に行うプレーのすべてが自動的に日本プロ野球記録となる。すでに今季に達成した投手記録だけでなく、注目は安打、得点などの打者記録だ。

 今季は3打数0安打だったが、昨年8月28日のヤクルト戦(神宮)では自身5年ぶりとなる安打を放ち、これが適時打に。48歳0カ月というセ・リーグ最年長安打と打点をマークしている。先発ローテ入りを果たせばおのずと打席も増えるだけに、新たなプロ野球記録樹立にも期待が高まる。

PROFILE
やまもと・まさひろ●1965年8月11日生まれ。神奈川県出身。186cm87kg。左投左打。日大藤沢高から84年ドラフト5位で中日に入団。5年目の88年に5勝を挙げて頭角を現すと、翌年から先発の主力に。93、94、97年には最多勝、93年には最優秀防御率、97年には最多奪三振のタイトルを獲得し、94年には沢村賞投手に選出された。プロ31年目の今季も先発白星を挙げ、数々の最年長記録を樹立。
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