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現地緊急リポート ダルビッシュ有 トミー・ジョン手術の是非

 



球界に大きなショックを与えたダルビッシュ有のまさかの戦線離脱。トミー・ジョン手術(ヒジのじん帯再建手術)を受ければ、最低でも1年以上はマウンドには立てなくなる。ここでは現地からの緊急リポートとして、トミー・ジョン手術の是非を含めて、渦中の右腕の最新動向をお伝えする
文=奥田秀樹

MLBは現場の投手の声に真摯に耳を傾けるべき


 オフに納得がいくトレーニングを積み、キャンプでも最初の12日間は絶好調だったダルビッシュ有。サイヤング賞獲得の期待も高まっていた。

 異変は突如やってきた。3月5日のロイヤルズ戦、最後の打者を空振り三振に仕留め、初回を12球で終えて、チームメートとハイタッチ。だが笑顔はなかった。ダグアウトで患部に触れながらトレーナーと険しい表情で話す。緊急降板である。

 約20分後、アイシングをして記者会見場に姿を見せた。上腕三頭筋が張ったと言い「ブルペンの途中で張ってきたので、そこから力は入れずにやりました」と説明し、軽症を主張。ファンはパニックにならなくていいのかの質問にも「まったく心配する必要はない」と強がった。

 だが翌日の午後に受けたMRIの結果は厳しいものだった。右ヒジ内側側副じん帯の部分断裂である。7日朝、担当医、ジョン・ダニエルズGMと話し合い。3つの選択肢が提案された。

「1つ目はこのまま投げ続ける。2つ目は、6週間ノースローで、そこからリハビリ。公式戦復帰まで4カ月かかる。3つ目はトミー・ジョン手術。復帰まで1年以上」とGM。

 GMはすぐにでも手術を受けてほしい様子だった。2017年までの6年契約。完全治癒して、16年の後半、17年に100%の姿を見せてもらいたいのだ。こういったケース、MLBの選手はチームドクターとは別の専門医の意見(セカンドオピニオン)を聞く権利が認められている。担当医はあくまで球団のために働き、時に選手の利益に背くからだ。選んだのはメッツのデビッド・アルチェック医師。10日にニューヨークで診断を受け、11日頃には決断を下しているのである。

 ところでトミー・ジョン手術とは損傷したヒジのじん帯を切除し、手首や足首など他の部位から正常な腱を移植するもの。通常復帰まで12カ月から15カ月かかる。問題となっているのは近年、この手術を受ける投手が急増していること。マット・ハービー、ホセ・ヘルナンデスなどドル箱スターに加え、日本人でも松坂大輔和田毅藤川球児らである。MLBはプロジェクトチームを組んで研究を進めているが、投げ過ぎはよくないという視点に終始している。

 そんな中、ダルビッシュが昨年のオールスターで出した提言は興味深かった。

「近年のトレーニングは球速を求め、体幹や脚部を鍛える一方で、腕やじん帯はプロテクトできていない」、「中4日では十分疲労が取れない、10年前、20年前とは禁止薬物の規定が大きく異なる」、「MLBのボールは重くてすべりやすく、ヒジにストレスがかかる」などである。NYタイムズなど主要メディアも関心を示している。

 あのペドロ・マルチネスは今年1月に殿堂入りが決まったときに「当時、先発ローテーションを守れなくなると、なぜ薬物を使わないのかと地元メディアに暗に批判された。今にして思えば、その圧力に負けて薬を使わないで本当によかった」と、以前は薬に頼る投手が少なくなかった実情を暴露した。MLBは現場の投手の声に真摯に耳を傾けるべきだろう。そうでなければ、ヒジのケガは減らない。
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