メジャーで生き残るために黒田がつかんだ変化球、ツーシームシンカー。もちろん、彼の日本復帰で「フロントドア」「バックドア」という言葉が有名になったが、それを使った投球術も黒田は手に入れた。その投球術「CrissCross(クリスクロス)」とは――。 文=奥田秀樹、写真=Getty Images ドジャースに移籍し、メジャーで通用する投球を手に入れた。それを使いこなす投球術も手に入れ、一流先発に成長していった
ドジャース3年目から見せ始めた急激な成長力
黒田博樹がMLBで一番多く対戦した打者。それは現在、ドジャースに在籍するエイドリアン・
ゴンザレス一塁手だ。44度の対戦で、38打数13安打、打率.342、3本塁打、OPSは1.116。当時、パドレスの左の主砲だったゴンザレスにたびたび痛い目にあった。
もう一人、ロッキーズの左の強打者カルロス・ゴンザレス外野手も手ごわかった。21度の対戦で、18打数7安打、打率.389、2本塁打、OPSは1.151だった。
同姓の2人はそれぞれメキシコ、ベネズエラ出身。手を伸ばして外角のツーシームをしっかりとらえ、長打にできる。彼らを抑えるには、内角を意識させ、簡単に踏み込めないようにするしかなかった。
2010年、メジャー3年目の後半、黒田の会心の内角攻めは、今もまぶたに焼きついている。7月28日はA・ゴンザレスのバットを粉々にし、8月18日はC.ゴンザレスのバットを真っ二つにした。2人だけではない、このころは誰に対してもまともに打たれた打球がほとんどなく、被打率が2割ちょっと、WHIPも1点以下と圧倒していた。「左打者への攻め方の幅が広がった。カッターとフロントドア、インサイドの球を表裏で使えるのが大きい」と当時のコメント。
8月18日のロッキーズ戦。それまではロッキーズには通算5度先発、0勝3敗、防御率7.57。「左にいい打者がたくさんいる。低めのツーシームをうまく当ててくる」と相性が悪かった。
その試合も左が6人並んだが、
エリック・ヤング、ゴンザレス、セス・
スミス、トッド・ヘルトンらから次々に三振を奪った。特にゴンザレスにはカッターをうまく使い、バットをへし折っただけでなく、空振り三振、投ゴロ、空振り三振と完ぺきに抑えた。
当時のカッターは動きが小さかった。「ビデオで見ても分からない。実際に打席に立って打ってみて、今のはカッターだったんだと打者が気づく、それくらいの動き」と黒田は言う。強力な武器になった。
「空振りを取ったり、ファウルを打たせたり、まったくのコントロールミス以外は、カチンといかれた打球がないですね」
ホームベースを中心にボールを十字に投げる
カッターをしっかり意識させたあと、フロントドアシンカーを投げる。現在日本で話題の黒田のフロントドア。使用頻度が高まったのはこのころだった。当時黒田のボールを受けていたドジャースのAJ.エリス捕手に、この春、話を聞いた。
「打者は内側、カッターの軌道を見慣れたら、ボールだと思って手を出さなくなる。そこに・・・
この続きはプレミアムサービス
登録でご覧になれます。
まずは体験!登録後7日間無料
登録すると、2万本以上のすべての特集・インタビュー・コラムが読み放題となります。
登録済みの方はこちらからログイン