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大谷翔平本塁打を打たれない投球のすご味

大谷翔平 本塁打を打たれない投球のすご味

 

今季前半戦に大谷翔平が圧倒的なピッチングを披露している。昨年までとの違い、今季のほかのチームの投手との比較から、いかに飛び抜けた投球を見せているのかが見えてくる。
文=高橋和詩(スポーツライター)写真=高原由佳

群を抜く勝率の高さ


 驚異の成長曲線を描き、前半戦を終えた。オールスターゲーム前までに13試合に登板し、2年連続2ケタ勝利を達成した。両リーグトップの10勝を挙げ、わずか1敗。昨季も9勝を積み上げてターンしたが「そこは去年と1つ違う」と、まずは自身も納得する節目へと到達した。 最も顕著に表れているのが12球団でダントツの勝率.909。圧倒的という表現では簡単に片付けられないほどの安定感だった。

■投手項目別成績トップ5(規定投球回以上)



 各球団のエース級を含む、規定投球回に到達した投手の中で、セ.リーグを含めても2位以下は6割台と、大きく引き離した。 マウンドに上がれば、勝つ──。21歳ながら絶対的な大黒柱といえる、勝利数に反映されて当然といえる数字だろう。プロ入り3年目の今季、初めて開幕投手を任されたという立場にふさわしい働きだ。突出した成績の数々を語る前に、数値では計り知ることができない強烈な責任感が芽生え、すべてのベースになっていることは疑う余地がない。

 進化の歩みを凝縮した一戦がある。10勝目をかけて臨み、大きな1勝を手にした7月10日の西武戦(札幌ドーム)。相手エースの岸孝之が完全試合ペースの7回無安打の快投。大谷が「(試合)途中まで3回ぐらい心が折れそうになりましたけど、声援に助けられました」と、極度に緊迫した投手戦で8回を3安打無失点と完璧にしのいだ。最終的に1対0で勝利したが、内訳に今季の強みが表れていた。

 浅村栄斗中村剛也森友哉の12球団ナンバーワンの破壊力を誇る中軸に計7打数無安打で4奪三振と、ねじ伏せた。打線の得点源を完璧に断つという、ゲームメークの最善策を実践した。ここから見えるのが、今季の躍進をシンプルに証明する成績である。 前半戦を終えた時点とはいえ、クリーンアップへの被打率の低下が飛躍的に改善された。昨季は三〜五番打者に.249(205打数51安打)だったが、今季は.168(107打数18安打)。約8分も下げている算になる。

 最も特筆すべき部分であり、レベルアップした根拠が隠されている。 投球内容を丹念にチェックすれば垣間見えているが、分かりやすくキーワードを挙げれば「ギアチェンジ」だ。150キロ台後半の直球を連発したかと思えば、140キロ台後半に球速が下がるシーンもよくある。

今季、大きな飛躍で「勝てる投手」になった大谷



洗練されてきた投球術


 中軸以外でも明確な点がある。今季の打順別の被打率ではワーストが九番打者で.267。昨季は一番打者に.328と苦手にしていた。リードオフマンの出塁を許せば機動力を絡められることも含め、失点の可能性が高まる。逆に適切ではない表現かもしれないが、九番打者にはある程度、過度な警戒を解き、対処しているともいえる。それが各球団の中軸に対する、被打率の推移から如実に、大谷の投球に対する意識の変化が読み取れるだろう。

 また、昨季は1試合平均7回に満たなかったイニング数が、今季は平均7回以上をマークしている。いかに、限られた球数の中で、可能な限りマウンドを守ることへの答えを、完全にとまではいかないが、見つけつつある。 列挙してきた成績を裏付けるのが、被本塁打の数だ。7月2日のオリックス戦(札幌ドーム)でT―岡田に浴びただけで、今季は両リーグ最少のわずか1本を献上したのみだ。

■規定投球回到達で被本塁打2本以下の投手(2リーグ制以降)


■歴代奪三振率シーズン記録(130投球回以上)


 シンプルに考察すれば、本塁打を打てる能力を持つ打者は、打線の中で中軸に配置されることが常だ。昨季は年間で計7被本塁打だったが、その内の5本がクリーンアップに許したものだった。今季は、その対戦球団の打線の心臓部を牛耳っていることが、白星も含めて、すべての面で向上している成績の最大の根拠といえるだろう。

 得点圏での被打率は昨季は.168で、今季は現時点で.175。ほんのわずかの差ではあるが、ピンチでは昨季以上に危うさを見せているにもかかわらず「勝てる投手」としてステージを上げている。中軸への驚異的な対応力の高さに、ピッチングのノウハウを知り、そのクオリティーが飛躍的な上昇をしたといえる。

 昨季までは最速160キロ以上を投げる剛腕で、それはそれで素晴らしかった。だが今季は、思考の転換もあったのだろうが、そこに投手として洗練されてきた一面がエッセンスとして加わった。ここで興味深い、大谷の今季の自己分析のコメントがある。「三振を取るタイプの投手。相手打者は、三振するのは嫌なので早いカウントで勝負をしてくる、という感じはあります。三振へのこだわりは特にないですけれど、要所で取れればというときはあります」。

 自分自身を知り、相手の心を含めた動きを読み取っている証明である。 野球は強者が絶対ではなく、時に弱者にも勝利の女神が振り向く。よく「流れ」のスポーツともいう。元来高かったパフォーマンスを最大限にマウンドから投下し、チームへと還元し、課せられた使命である白星を挙げることへの確率を高めている。あくまで推察ではあるが、数字が物語る。大谷が、そのための最善の方法論をきっと導き出したのだろう。
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