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特集・至高の投手論2016
オリックス・金子千尋インタビュー「僕から言わせると投球スタイルって必要ないんですよ」

 

常に勝利を追い求め、目指すはスコアに“0”を刻むこと。そのためには何が必要か。8つの変化球を自在に操り、貪欲に投球を突き詰めるオリックスのエース右腕が、自身の投球を語る。
取材・構成=鶴田成秀、写真=佐藤真一、湯浅芳昭(インタビュー)



多彩な変化球を操る狙いとワケ


決してブレることはない。2013年の沢村賞右腕も昨季は右ヒジ手術の影響で開幕に間に合わず、わずか7勝どまり。チームもリーグ5位に甘んじて、悔しさばかりが募った。雪辱を期すエース右腕は、変わらぬスタイルで今季に挑む。

――巻き返しを図るチームの中で、エースとしてフル回転が期待されています。その中で、新たに今季「目指す投球」はあるのでしょうか。

金子 去年の悔しさは、もちろんあります。だからといって新たに変えることはありません。僕の中での理想の投球は27球で完投すること。それが一番。でも、それはほぼ不可能ですから、80球くらいで完投することが理想です。

――1試合を投げ抜くことが理想ということですか。

金子 投げ抜いて、勝たなければ意味がないですけどね。

――球数を挙げましたが、少ない球数を心がける理由は?

金子 1試合だけなら何球投げても良いと思うんです。でも、1年間を考えたら1球でも少なくしたい。次の登板に可能な限り負担にならないように。体の問題ですね。あとは球数が少なくなれば、守っている時間が短くなるので攻撃にリズムを与えられる。だから球数は少なくしたいんです。

――そうすると、打たせて取る投球が主になってきます。

金子 普通に考えたらそうですね。でも僕は自分の投球スタイルを持ちたくない。球数は少なくしたいけど、相手打者をしっかり考えて配球を考える。打者のクセや傾向、そしてタイプ。どのコースが強いのか、変化球が得意なのか。ある程度、データがあるので、それを踏まえて。ケースに応じて投げ分けるのが大事ですから。僕から言わせると投球スタイルって必要ないんですよ。

――必要ないと思う理由は?

金子 スタイルを確立したら、追い込んだら「この変化球」というパターンが分かりやすくなるじゃないですか。ということは、打者は何を投げてくるのか読みやすくなります。逆にスタイルがなければ、配球を読みにくくなりますからね。

――8種類の変化球を投げるのも、的を絞らせないのが理由ですか?

金子 単純にたくさん投げたいというのもありますが(笑)。昔、テレビで古田(敦也・元ヤクルト)さんが『打ち取れなくてもいいからフォークを投げろ』って言っていたんです。投げることによって相手は意識する。あると思わせるだけで、狙い球が絞りにくくなるわけですよね。球種が1つなら、それを狙えばいいけど、2つなら2分の1になる。確率の問題になってきます。

――その中で「得意・不得意の変化球はない」と言っていますね。

金子 『どれが決め球?』と聞かれても答えられないんです。僕の中では全部70点なので。もちろん全部100点にしたいですけど。だから、どのサインを出されても不安はないです。もちろん、試合の中では1つの球種を多投することがあるかもしれませんが、だからと言って得意球というわけではないですし、投げない球が苦手というわけでもないんです。

――どの球種も武器になっているということですか?

金子 得意な球種をつくらないことは、相手に特定のイメージを持たれないということ。イメージを持たせたくないんですよね。でも、ある程度、打ち取る可能性の高いボールは出てくる。追い込んでから使いやすいボール、実際に使っているボールは絶対に出てきます。それを利用するのか、逆に違う配球をしていくのか。パターンが増えいきますから。

――打ち取りやすいボールとは。

金子 一概には答えられないですね。ケースや打者にもよりますから。

――では0対0、9回裏二死満塁で打者はソフトバンク柳田悠岐選手。このケースでは?

金子 それだけでも答えられないですね。それまでの対戦内容にもよりますし、その前の打席で打たれたのか、抑えたのか。そのボールや配球は何だったのかにもよります。ただ、1つ言えるのは0対0だと打者心理は自分で決めたいと思うはず。四球で良いと思う打者もいるけど、柳田君なら自分で決めたいと思うタイプでしょう。それを考えて打ち取るボールを組み立てていく。まあ、相手も僕のデータを知っていますから。そのデータどおりに投げるのか、まったく反対のボールで行くのか。そういう選択になりますね。

――打者との駆け引きを楽しんでいるようですね。

金子 裏をかくというか、人が考えないことをやりたい性格なんです。打者が考えていない球種を投げたい。そのほうが見逃す確率が高くなる。振らなかったらヒットになることもないし、エラーになることもない。見逃し三振が一番安全ですからね。

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