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特集・至高の投手論2016
オリックス・金子千尋インタビュー「僕から言わせると投球スタイルって必要ないんですよ」

 

打つのはあくまで打者、自分本位ではダメ


尽きることのない投球論。それは勝利のためだ。だからこそ大切にしてるのは“自分本位”にならないこと。投げるのは自分だが、打つのはあくまで打者。自身の投球論の基盤は、そこにあり、そして、その先にチームの勝利がある。

フィールディング練習なども入念にこなす今キャンプ。ブルペンでは課題を見つけ、いかに早く修正できるかを磨き、調整と強化を同時に進めている



――多球種を持つだけに捕手との呼吸もより大事になるのでは?

金子 あんまり話さないですね。ここ何年かは伊藤光が受けていて、僕が投げたいと思っているであろう球種を分かっていると思うので。だから、必要以上に話すと、逆に良くないと思っているんです。例えば今日、僕が真っすぐで押したいと言ったら、それが頭に残って要所で全部真っすぐの可能性が出てきますから。

――配球を考えているから、常にマウンド上で表情を崩すことなく、平常心でいられるのでしょうか。

金子 マウンドでは打者の反応を見ることを心がけているので。まあ、メンタルがしっかりしていれば制球は良くなりますしね。ただ、「気持ち」というより考え方です。マウンド上で、どれだけ冷静になって、自分の持っているものを出せるかが一番大事なんです。

――今まで平常心を失ったことは。

金子 急にストライクが入らなくなることはありますね。僕の場合、何が原因かと言えば考え過ぎなんですけど。球種やコースなど、いろいろ試して、何も当てはまらないと、急にストライクが入らなくなってしまうんですよね。

――制球は「ここに投げなきゃ」ではなく「ここに投げておけば大丈夫」と思うようにしていると以前、言っていました。

金子 「ここに投げなきゃ」だと、プレッシャーになるじゃないですか。でも、「ここに投げておけば大丈夫」と思えば気持ちは楽。プレッシャーを感じると、やっぱりフォームのズレが出てくる。それが制球にも影響してくると思う。考え方1つで変わってくると思うんですよね。

――今年1月には東明大貴投手と自主トレを行い、東明投手がアドバイスをもらったと言っていましたが、どのようなことを伝えたのですか。

金子 昔の僕の考えと似ていたんですよね。変化球で例えるなら、自分から見て曲がっていないと不安なんですよ。でも、打つのは誰なんだ?って聞いたら打者って答える。大きく曲がっても、打ちやすかったら意味がない。自分が不安でも打者が打ちにくかったらいいんじゃない?って、いつも伝えています。

――金子投手も昔は、そうだった?

金子 そうでしたね。曲げたいし、落としたかった。だから、人の意見って大切だと思います。ただ、捕手の意見を参考にはしていないですけど。捕手はあくまで捕る人。何を投げてくるか分かっているし、打者と目線の高さも違う。あくまで打者の目線で考えるようにしています。

――2009年から一塁側の投球プレートに変えましたが、これも打者目線と関係があるんですか?

金子 それは変化球の曲がり幅と制球の関係ですね。僕は、もともと右打者のインコースに投げるのが苦手だったんですけど、08年の秋のキャンプに野茂(英雄)さんに臨時コーチで来ていただいて。そこでシンカーに近いシュートを投げたいと言ったら、投げ方を教えてくれるのではなくて「一塁側から投げてみたら?」って言われたんです。

――一塁側から投げれば、右打者の内角を広く使えるようになる?

金子 そうですね。数十センチですけど景色が変わったんです。ストライクからボール球になる変化球じゃないと打者は振らないので、三塁側から投げると変化幅が大きくないとダメ。だから難しかったし、苦手だった。でも一塁側から投げれば、角度がつくので変化幅は小さくて良い。紅白戦で投げたときに打者に「プレートの位置を変えたの気が付いた?」と聞いたんですけど、誰も気が付かなかったんですよね。打者からしたら、プレートの位置はその程度のこと。でも、投手にしたら大きなことなんです。変化球は大きく曲げないといけないという考え方も、そこで変わりましたしね。

金子千尋の投球プレートの考え方:青矢印のように一塁側から投げれば、角度がつくので、右打者の内角へのシュートも変化幅が小さくても、ストライクからボールになる軌道を描けます。でも、三塁側からなら、大きく曲げないといけません。さらに一塁側から投げれば、真ん中に投げるような感覚で投げると自然と外角に決まる。変化幅に加えて、制球という意味でも、一塁側から投げることで、投球の幅が広がりました



――今キャンプのブルペンでは、どのようなことを意識して投球していますか。

金子 その日、その日によって違いますけど、基本的にはフォームですね。フォームがきっちりしていれば、投げたいところに行く。行かなかったらフォームがバラついていた、ということですから。でも、今はそこまで制球を気にしていないので、制球が乱れたら、それはそれでいいと思っています。

――課題を見つけることに重きを置いているということですか?

金子 はい。その場で、どう修正できるかが大事。マウンドでは、その日の調子の中で自分の持っている力をいかに出すかが勝負になりますから。

――そうして築き上げてきた変幻自在の投球スタイルを今年もファンは期待しています。最後に今年の目標を聞かせてください。

金子 とにかく今年は1年間、一軍で投げ抜く。それができないと、どの結果も付いてこない。常に勝つために、どうするのか。100%はないけど、そこに近づけるために、自分はどうすればいいのか、そこをしっかり考えながら戦っていきたいと思います。

PROFILE
かねこ・ちひろ●1983年11月8日生まれ。新潟県出身。180cm77kg。右投左打。長野商高卒業後、トヨタ自動車を経て05年自由獲得枠でオリックスに入団。07年途中で先発に転向すると08年から先発ローテ入り。10年には17勝(8敗)で最多勝を受賞。11年、12年と度重なる故障に悩まされるも、13年は1年間先発ローテを守り切り、最多奪三振のタイトルを獲得。さらには選考基準7項目をすべてクリアし、沢村賞を受賞。昨季は右ヒジ手術の影響で5月下旬に初登板と出遅れ、わずか7勝(6敗)に終わるなど不本意な成績に終わり、今季は再飛躍を期す。
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