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2016春・ドラフト特集

創価大・田中正義 主将兼エースが直面した試練

 


取材・文=岡本朋祐、写真=矢野寿明

急なアクシデントもプロはすぐさま察知


 岩槻川通公園野球場は騒然とした。4月23日、共栄大1回戦で創価大の先発・田中正義は2回で降板。初回から真っすぐが高めに浮き、変化球も引っ掛け、本来の投球には程遠い。何らかのアクシデントは明らかだった。田中は一塁ベンチ裏に引き揚げると、そのまましばらく姿を見せない。病院への“緊急搬送”を警戒した報道陣は、一斉に場外のグラウンド入口へ移動し待機。今年2月に違和感を訴えた右肩痛の再発ではないかと、懸念を示したのであった。

 ネット裏で視察する日米7球団のスカウトも表情を曇らせた。あるスカウトは「初回から(2番手の)池田隆英(4年・創価高)が準備していたので、おかしい感じはした」と明かした。また、一方でベテランスカウトは「立ち上がりはいつものように加減して、強弱をつけているのかな、と思ったが……。真っすぐも全然、来ていない。147キロは出ていたが腕が振れていなかった」と、プロはすぐさま異変を察知していた。

主将のショックが影響しチームは共栄大に連敗


 創価大の広報担当者が、試合後に取材対応する旨のアナウンスがされると、田中はベンチへ戻っていた。

 身を乗り出して選手を鼓舞する中、カメラは田中の“変化”をキャッチしていた。右手中指にテーピング。試合前のブルペン調整ですでに爪が割れかけており、2回終了の段階で続投が不可能であると判断。田中は創価大・岸雅司監督に交代を直訴したのであった。

「初めての経験。縦に深く割れた。中途半端なことをして、チームに申し訳ないことをした。なるべく早く、投げられるようにしたい」(田中)

 右肩痛の再発は改めて否定している。

4月23日の共栄大1回戦で先発した田中は、右手中指のツメが割れた影響で2回降板(2安打無失点


 当初は3月の侍ジャパンの強化試合に招集される予定だったが、調整遅れのため見送られた。オープン戦も中6日で3イニング、5イニング、5イニング、7イニングとステップを踏み、4月5日の杏林大との開幕戦では3失点完投。自己最速の156キロには及ばなかったが151キロを披露。しかし、完璧主義者の本人は「100%の調整をしてきたわけではない。リーグ戦の緊張感の中で覚えることもある。ゲームを重ねるごとに成長していければ」と、自己採点も70点と厳しかった。空き週には紅白戦(4月16日)に登板。3回無失点と調子を上げてきた矢先の負傷は、チームとしてもショックを隠せなかった。創価大は共栄大1回戦を落とすと、2回戦も連敗。試練にも岸監督は努めて、前を向いていた。

「負けるが勝ち、という故事があるように、負けたときに落胆したら負け。いろいろな苦しい思いを味わわないと大成しない。(リーグ戦は)2カ月のロングランですから、こうしたことも想定していました」

試合前のブルペンからアクシデントに襲われていたという。ボールの走りが悪く、変化球も抜ける場面が目立った。チームに迷惑がかかると2回を終えて岸監督へ降板を申し出た


史上最多8球団が競合した「野茂英雄」級の実力


 最終学年、「大学日本一」を目標としている田中にとって、立ち止まっている時間はない。しかし、将来を考えれば、休む勇気が必要かもしれない。万全ではないコンディションで登板を重ねれば、バランスを崩し、知らず知らずのうちに、古傷に負担がかかってしまうリスクもある。

 ドラフトでの獲得を目指すスカウトからすれば、5日の今季初登板で“評価は決まった”と言っていい。NPB全12球団47人の関係者が、県営大宮公園野球場のスタンドで視察。一時、出ていた“不安説”を一蹴し、元気な姿を確認できたからだ。中日中田宗男スカウト部長は、ドラフト史が動くことを予言していた。

「150キロを出す投手は何人もいるが、球の質が違う。タイプは異なるが、かつての野茂(英雄、元近鉄ほか)のように、滅多に出る投手ではない。だから1位競合になるわけです。避けるのは勇気がいる、ということ」

 1989年、新日鉄堺・野茂には史上最多8球団が重複した(翌90年には亜大・小池秀郎にも8球団)。田中には、野茂に匹敵する実力があるのだ。故障の回復を含め、2016年の超目玉の動向から目を離すことはできない。

PROFILE
たなか・せいぎ●1994年7月19日生まれ。神奈川県出身。186cm89kg。右投右打。上末吉小1年から駒岡ジュニアーズで野球を始める。末吉中では川崎中央シニアに所属。創価高では1年夏に背番号1を着けるが以降、右肩痛の影響もあり、主将となった2年秋から中堅手(四番)。3年夏は西東京大会4強で、甲子園出場経験なし。創価大では2年春にデビューし、4強進出に貢献した大学選手権で特別賞。3年時は春、秋とも6勝0敗で秋は防御率0.00。今春の杏林大1回戦で昨春からの連続イニング無失点は56でストップ。東京新大学リーグでMVP1度、最優秀投手賞2度、ベストナイン3度受賞。2年時から侍ジャパン大学代表で、昨夏のユニバーシアード(韓国)では金メダル獲得(台湾との決勝で先発予定も、雨天中止で同時優勝)。リーグ戦通算22試合、16勝1敗、防御率0.37(4月24日現在)
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