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特集・最強打線を作り上げろ!

広島の前指揮官・野村謙二郎氏に聞く「今年の赤ヘルはここが違う!」

 

ここでは赤ヘル打線を徹底解剖する。2014年まで5年間指揮を執った前監督だからこそ分かるチームの変化を語ってもらった。
取材・構成=吉見淳司、写真=川口洋邦

のむら・けんじろう●1966年9月19日生まれ。大分県出身。佐伯鶴城高から駒大を経て、89年ドラフト1位で広島に入団し、2005年の引退までに最多安打3回、盗塁王3度、通算2020安打など、リーグを代表する内野手として活躍。10年から14年まで監督を務め、13年、14年にはチームをCS出場へ導いた。現在は野球解説者


盗塁に見える“大人の野球”


 6月15日現在で、カープはセ・リーグでは唯一の貯金7をマークしていますが、その要因のひとつとなっているのが打線でしょう。シーズンが始まった当初は積極性がないように思ったのですが、次第にそれが出てきたこと。さらに、昨年は不調だったキクマル(菊池涼介丸佳浩)に当たりが戻り、フォアボールを選べ、左投手を苦にしない(田中)広輔が一番に定着したことで、一、二、三番を固定できたことが大きい。初回に3人で点を取ることもあれば、誰かが塁に出て四番、五番でかえすケースもある。ランナーを置くシチュエーションを多く作れているので、ビッグイニングをしばしば生んでいることが好調打線のカギになっていたと思います。

 菊池に話を聞くと、これまでとはバッティングスタイルをガラッと変えたようです。右方向への打球がすごく多くなっていますが、それは自分の立ち位置を理解したからでしょう。葛藤はあったかもしれませんが、チームが勝ち、自分も活躍できるプレー、つまり後ろにつなぐことを徹底している。それを見て、丸もかえさないといけないという意識が高まっている中で、フォーム変更などの取り組みが実を結びました。この2人のコンビはいい刺激を与え合いながら、口には出さないかもしれませんが「俺たちが引っ張っていかないと」という自覚を持ってプレーしています。

菊池涼介


 エルドレッドは好不調の波が激しいのですが、悪くなる傾向があった場合は休ませたり、打順を下げることでうまく調整しています。新井(貴浩)もできるならフルに出てほしいでしょうが、年齢的なことを考えて、休ませながら体が万全な状態でゲームに使っている。そういった点では松山(竜平)の存在が大きかったでしょうね。どちらかを休ませたときに活躍してくれる。そういう部分での競争意識、「自分を忘れては困る」というアピールがいい結果につながっています。

 競争意識という意味では鈴木(誠也)も成長著しいですね。本当に、順調に伸びていると思います。ただ、まだキクマルや広輔などがいての鈴木。カープといえば鈴木という存在までにはなっていませんが、しっかり結果を残しており、現時点では文句のつけようがありません。ベテランのように試合の流れを把握できているわけではないので、それを意識してプレーできるようになれば本物になれるでしょうね。


 チーム打率が良くても点を取れないこともあります。しかし、盗塁数が増えていることが打線の活発化につながっていますね。今年のチームを見ていると、走ってもいいかな、というときでも走らなかったり、クイックモーションが巧い投手の場合はよっぽどのことがないと行かない。何人かの選手はスチールフリーのサインが出ているとは思うんですけど、むやみやたらに仕掛けず、配球を読んで走っているので成功率が高い。これは去年と違うところですね。大人の野球というか、我慢するときは我慢して、走るときは走るという作戦が当たっていて、選手がそれにうまく対応している印象です。

 スリーボールツーストライクの場合はオートマチックで走るのですが、そのケースではバッターはストレート系を狙ってランエンドヒットの形になったり、フォークボールであれば見送ってフォアボールを奪うケースも多かった。それはベンチの監督やコーチらがしっかり指導し、それが結果につながったことで、さらに好循環になっているのでしょう。

役割を理解する一、二、三番


 交流戦に入って少し打線は下降気味ですが、やはりなかなか対戦していない投手相手だと感覚的なズレはあるかもしれません。僕の監督時代も含め、カープは交流戦でなかなか勝ち越せていません。選手には「ボールを見るな。振っていけ。受け身だとどうしてもズレを修正できないから、スイングしてどうだったかを感じるんだ」と言っていたのですが、実際にはボールがちょっと曲がると、バットが出ないこともある。スコアラーから入ってきた情報と、打席に入った印象は違いますからね。すごいという評価の投手でも実際のボールはそうでもなかったり、ネームバリューのない投手に抑えられることもあります。

 それでも、バッターは仕掛けていかないといけないんです。初めに言った積極性があれば、中途半端なスイングをせずにファウルになったり、甘い球を仕留められる。ただ、交流戦では少し構えてしまっているように感じます。

 しかし、すでに70試合近く戦っているのですから、監督の采配、意図は分かっているはず。これからの戦いは、新井らベテランや、鈴木をはじめとする若い力、キクマルのようなこれから成熟していく選手が一体とならないといけないでしょう。

 監督からすると、打線を固定できるのはすごくラクなんです。打線が固定できれば、守備固め、代走、代打の右、左がいれば、残るベンチ入りメンバーを投手に回すことができますからね。

 その中でも広輔、菊池、丸という一、二、三番が不動なのは、3人が自分たちの役割をしっかり理解しているからこそでしょう。「このケースでは丸は三振しないから走ろう」というように、チーム方針が浸透していることを感じさせます。

 現在まではカープらしい戦い方ができていると思います。カープの打線はつないでいく打線。ホームランの数が多いとは言われていますが、それは結果的にそうなっているだけであって、伝統的な足を絡めながら得点を奪う場面が多くありました。足を警戒し、投手がコントロールを乱し、球数を多く投げさせて甘い球を狙う。今年はその理想に向かって行くことがかなりできているので、この戦い方を継続すればきっと、リーグ優勝は見えてくると思います。

要注目プレイヤー!丸佳浩


丸佳浩


 このチームの中心はキクマルですよ。キクマルがどれだけ出塁して、ほかの選手がかえせるかどうか。丸は打率3割を切っていますが、これからですよ。昨年の交流戦終了時には打率.233 でしたが、そこから3割を打つのはすごく苦しい。しかし今は2割8分前後ですから。僕はそれほど心配していないですね。

伝統+パワー、進化する赤ヘル打線
(遊)田中広輔
(二)菊池涼介
(中)丸佳浩
(一)新井貴浩
(左)エルドレッド
(右)鈴木誠也
(三)安部友裕
(捕)石原慶幸
(投)――
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