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2016日本シリーズ総決算
広島・黒田博樹の最後のマウンド “泥臭い主人公”の思い

 

今季限りで現役引退を表明。感謝の思いを胸に自身、最初で最後となる頂上決戦のマウンドに上がった。
文=吉見淳司(本誌)、写真=小山真司

 グラウンドで歓喜の輪が広がる中、黒田博樹は一人ユニフォームを着て、球場内のサロンのモニターでその様子を見つめていた。明日に立つかもしれなかったマウンドには日本ハムナインが整列している。

 日本一セレモニーが始まるころ、イスから腰を上げてペットボトルの水を一気に喉に流し込む。サロンを出ると通路を通り、チームメートたちに加わった。

「黒田──!」

 悲鳴のような歓声が沸き起こる。黒田の表情に悲壮感はなく、現役生活の終わりを淡々と受け止めていた。

満身創痍のベテラン


 このシリーズで日本一の行方と同じくらいに注目されていたのが、10月18日に現役引退を表明した黒田の動向だった。地元ファンへの配慮から、緒方孝市監督は「一番知りたいところでしょうから」と、シリーズ開幕前日の21日に、札幌ドームで行われる第3戦での先発を予告。さらに万が一、予告先発した黒田が当日のアクシデントにより登板できなかった場合にも、翌日以降の登板が可能になるようNPBに提案するなど(通例では、直前での登板回避は当日を含めて3日間の登板禁止。協議の末、NPBは特例を認めず)、万全を期していた。

 それでも、黒田のスタンスは変わらなかった。「毎試合、常に最後のつもりで、死に物狂いでマウンドに上がってきた」。予告どおり札幌ドームのマウンドに上がった黒田は初回から全力投球。ツーシームやカットボール、スプリットなど、打者の手元で変化するボールでストライクゾーンをいっぱいに使い、日本ハム打線の前に仁王立ち。特に注目されたのが大谷翔平との対決だ。初回の第1打席では先制点につながる左翼への二塁打を浴び、4回の第2打席も右中間を破られ二塁打とされた。

 ハイライトは2対1とリードして迎えた6回の第3打席。この日85球目となるスプリットで左飛に封じたが、黒田は顔をゆがめてベンチ裏へ。両足がつるアクシデントのためにテーピングを施して一度はマウンドに戻ったものの、投球練習で続投は無理と判断され、無念の表情で降板。引退直前の投手とは思えぬ雄姿に、両チームのファンからは惜しみない拍手が送られた。

 その後、後続が打たれて試合は延長戦へ。10回、サヨナラ打を放ち広島に初黒星をつけたのは大谷だった・・・

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