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現役二塁手が語る守備の美学

中日・荒木雅博インタビュー 直感はデータに勝る

 


現役二塁手では最多となる、6度のゴールデン・グラブを受賞(2004〜09年)。守り勝つ野球でセ・リーグに君臨した中日黄金時代の立役者だ。9月には40歳となる今季も若手の多い内野陣の司令塔として欠かせない名手に、独自の哲学を聞いた。
取材・構成=吉見淳司、写真=榎本郁也

見えない2つのファインプレー


──荒木選手のプロ入りは1996年。当時と比べると打者の体格が良くなって打球が速くなったり、左打者が多くなるなどの変化はあったと思いますが、それにつれてセカンドに求められるものが変わったと感じることはありますか。

荒木 いや、時代とともに変わった、という感覚はないですね。一塁までの距離が近い分、根本的に求められるのはやはり守備範囲。ショートだと前に出ないと間に合わない場合が多いですが、セカンドだと下がって追っても大丈夫。打者の足が遅ければ遅いほど後ろで守り、それだけ捕れる範囲を広くできるように考えています。

──スピードよりも守備範囲。

荒木 ボテボテのゴロにも対応できるように準備はしていますけどね。打者の打球傾向や足などを頭に入れています。打者だけでなくピッチャーによっても違いますね。ピッチャーの球とバッターの足、球場の芝などによって守備位置は違ってきますよ。

──ポジショニングが定まってきたのはどれくらいからでしょうか。

荒木 ここ4、5年じゃないですかね。それまでは試行錯誤しながら、例えば谷繁(谷繁元信、元中日ほか、前監督)さんがキャッチャーのときは指示を出して動かしてもらっていましたし、ショートを守っていた井端(井端弘和、現巨人コーチ)さんのポジショニングを見て、僕も位置を変えることもありましたね。井端さんが三塁側に寄ったら、自分は二塁側に行ったり、反対に距離を取ったりしていました。

──中日の内野には若い選手が多く、現在は荒木選手が指示を出さないといけない立場なのでは。

荒木 状況や打者によって動かすというよりは、こういう場合はこういうふうに動いたほうが確率は高いよ、とは言っていますね。要は確率の問題ですから。

──荒木選手は2001年から二塁での出場機会を増やしましたが、当時と現在では二塁守備への理解度は違いますか。

荒木 若いころは体の動きだけでカバーしていた部分はあったと思います。ある程度違ったところを守っていても、走って追いつくような。動ける範囲はたぶん落ちていると思いますよ。それを今度は、経験でカバーしていますね。長いことやっていると同じような状況は昔にあったはずなので、それを思い出せるように。

──特に行っていた練習はありますか。

荒木 よく打撃練習で、打者が打っているときにセカンドを守っていたことはありますね。打撃投手のボールではありますが、どこに飛んでくるか分からない状況で守るという。打者の特徴を考えながら、感覚的な部分を磨いていきましたね。

──個人的には荒木選手の視野の広さに驚かされます。例えば4月5日の広島戦[ナゴヤドーム]では、ともに同点の9回一死一、二塁と延長12回一死一、三塁の守備で、ショートの京田陽太選手が併殺を取ってピンチを切り抜けましたが、直前に荒木選手が何か指示を出していたように見えました。

荒木 ある程度はベンチの指示で動きますが、そこで微調整の必要がありますからね。

──9回の打者はエルドレッド選手でした。

荒木 あれは「深く守れ」と伝えただけですよ。「ゴロは全部ファーストに投げるつもりで行け。俺はセカンドに入るけど、一塁走者(鈴木誠也)は足が速いしリードを取っているんだから。最初からセカンドに投げるんじゃなく、捕って、投げられるようだったらセカンドで一つ取ればいいから」と。エルドレッドなら深く守っていても一塁でアウトにできますからね。

──結果はショートライナーを京田選手がダイビングキャッチし、飛び出していた二塁走者を封殺して併殺。深く守っていないと捕れない打球でした。

荒木 そうでしたね。京田がいいところに守っていました。

──延長12回のほうの打者は會澤翼選手でした。

荒木 中間守備のケースで、「もうちょっと下がれ」というベンチからの指示がありましたが、少し前に守らせました。三塁走者は俊足の鈴木で、ボテボテのゴロだったらホームにかえられてしまう。「抜かれたらピッチャーの・・・

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