8球種にも及ぶ多彩なボールを、自在に操る投球を見せる言わずと知れた球界屈指の“変化球マスター”。「変化球は打者を抑えるための武器」と、強い信念を持ち続け右腕を振る。直球勝負を“美”とするファンが多いのも、また事実だが異を唱えるように言う。「僕は変化球で攻めている」。そんな金子千尋が変化球を投じる際に心がけていることとは──。そこには“止まる”と称されるチェンジアップの秘密も隠されている。 取材・構成=鶴田成秀、写真=佐藤真一、石井愛子(インタビュー)、BBM “変化させる”のではなく“変化する”のが変化球
七色の変化球を自在に操る中で、全球種に通じて肝に銘じているのは、いかに直球と思わせるか。だからこそ、ボールの曲がり幅にこだわりはない。それが、8球種の中でも絶賛される“チェンジアップ”の効力を増している要因だ。 ──8球種を使い分けるうえで、心がけていることはありますか。
金子 自分に言い聞かせていることでもありますが、しっかり腕を振ることです。
──打者に直球と思わせるためにも。
金子 そうですね。ストレートを抜いて投げる人はいないじゃないですか。曲げようと思ったり、落とそうと思うと、どうしても腕が緩みやすくなってしまう。そうなるとコースを突いてもバッターも振らなくなる。だから、しっかり腕を振って、ストレートと思わせることが大事だと思っているんです。
──直球とのコンビネーションをうまく使うことで変化球が、より生きると。
金子 はい。それに変化球って読んで字のとおり「変化する球」じゃないですか。でも、僕は「変化させる」ものではなく、「勝手に変化する」ものだと思っています。
──『曲げるためにこう投げる』ではなく、『こう投げるから、こう曲がる』と。
金子 そうですね。スライダーでいえば、曲げようとするとヒジが下がりがちになってしまう。それに自分から見て曲がっていると感じるということは、変化が早いということ。よく言うじゃないですか、バッターの手元で変化するほうが打ちにくい、と。そのボールになりにくくなるので、変化させようという思いはそこまで強くないんです。
──曲げることを意識し過ぎない。
金子 自分から見て曲がっていなくても不安になる必要はないんです。まだ投げるレベルじゃないというか、踏ん切りがつかないと思いがちなんですけど。
──とはいえ、変化球に興味を持つきっかけは、曲がり幅の大きな変化球を投げたいと思うことではなかったですか。
金子 僕もそうでしたよ。やっぱり変化しているのが、一番分かるのはカーブでしたね。桑田(
桑田真澄)さん(元
巨人ほか)、工藤(
工藤公康)さん(元
西武ほか)のカーブ。スピード差で言えば、星野(
星野伸之)さん(元
オリックスほか)のカーブはすごいと思いました。確かに見て変化が分かるのは、すごいと思っていました。そこから、好奇心が生まれていったのは確かです。
──そこから投げていくうえで、考えが変わっていった。
金子 変化球は、バッターを抑えるための武器です。その中で、多くの球種を覚えてきたし、自然と増えていきました。
──3年前の2014年に本誌で全球種を公開していただきました(全球種の握り方は
→こちら)。そこから新たに覚えた球種や、変化はありますか。
金子 特に変わってないです。ほぼ同じですね。
──「ほぼ」というと微妙な違いはある。
金子 本当に微妙なものです。たぶん見ていて分からないと思いますよ。
──それは握りですか。
金子 握りもそうですけど、あとは投げるコースや変化の幅を大きくするか、小さくするかなど。そうしたちょっとした変化です。
──その微妙な変化を加えると、もはや“8球種”にとどまらない。
金子 細かく分けるとそうなりますけど・・・
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