週刊ベースボールONLINE

背中で見せるベテラン3人衆

阪神・鳥谷敬 戦う勇気をナインへ

 


 鳥谷敬の表情は少なくとも目元を確認する限り、普段どおり「無」に近かった。バットマンに似た黒いフェースガードを装着し、ゆっくりと左打席へ歩き出す。

「代打 鳥谷」

 甲子園にコールが響く前にはもう、待ち切れない観客が「ウオーッ!」と絶叫していた。敵味方は関係ない。誰もが手をたたき、感動のあまり泣き出す阪神ファンもいた。そんな印象深いシーンについて、鳥谷は「申し訳ないよね」と照れ笑いする。非日常と化した空間の中、背番号「1」だけが通常モードだった。プロ野球歴代2位の連続試合出場数を当たり前のように、1795に伸ばした。

 5月24日巨人戦[甲子園]の5回裏。左腕・吉川光夫のすっぽ抜けた144キロ直球が顔面の右側付近に直撃した。悲鳴の後に静寂。金本知憲監督が血相を変えて一塁ベンチを飛び出す。うずくまって動けなくなった鉄人の姿に、誰もが息をのんだ。大量の血が鼻から流れて止まらず、そのまま途中交代して兵庫・尼崎市内の病院へ。「鼻骨骨折」。2カ所が折れている重傷だったが……。一夜明けた25日の巨人戦前、鳥谷は直接謝罪に訪れた吉川光に「気にしなくていいよ」と声をかけた後、甲子園で金本監督に直訴した。

「スタメンでも行けます!」

 顔面は紫色にはれ上がったまま。動けばすぐ鼻から出血する状態だった。指揮官は「さすがに僕が止めました」と振り返る。結局は5点リードの6回裏二死から代打登場。右腕・桜井俊貴の150キロ近い直球に力強く右足を踏み込み、ストライク2球を強振でファウルに。「(怖さは)もう全然なかった。ゲームに入ればね」。最後は三ゴロに倒れたが、甲子園は再び大歓声に包まれた。「鳥谷さんの、あの姿を見たら……」。想像を絶する「勇気」がナインの心に響かないわけがない。チームはこの日、巨人戦の連敗を3で止めた。

「今年は、当たり前のように始まって当たり前のように過ぎていく感じじゃない。もう1回、自分がやっている姿を・・・

この続きはプレミアムサービス
登録でご覧になれます。

まずは体験!登録後7日間無料

登録すると、2万本以上のすべての特集・インタビュー・コラムが読み放題となります。

特集記事

特集記事

著名選手から知る人ぞ知る選手まで多様なラインナップでお届けするインビューや対談、掘り下げ記事。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング