巨人が2位に最大10.5ゲーム差から急失速。一部では“逆メークドラマ”という言葉が躍るようになった。1996年、11.5ゲーム差をひっくり返して優勝した巨人の逆バージョンだ。この世紀の大逆転ドラマを振り返ってみよう。

追いついたのは8月だった

　1996年の大逆転劇メークドラマ。巨人ファンにとっては歓喜の記憶であり、それ以外にとっては、「毎年、ゲーム差が開くと巨人寄りのメディアが持ち出してくる屁理屈で妄想」だろう。すでに23年前ということもあり、誤解をしている人も多い。大きくは3つだ。

　その1、最終盤の逆転優勝だった

　その2、優勝決定は最終戦だった

　その3、最後まで競ったのは広島

　1、2は間違い。3は△か。

　では、かいつまんで、このシーズンを振り返ってみよう。

　94年オフ、巨人は30億円とも言われた大型補強で広沢克己、川口和久らを獲得も、まったく機能せず、95年は3位に終わった。迎えた96年、長嶋茂雄監督はV奪回に向け、「ロケットスタート」を掲げたが、14試合を終えた時点で借金4の最下位。それでも長嶋監督は「アメリカやソ連だって何度もロケット実験に失敗しているんですよ、うちはまだ一発です」とあくまで明るかった。

　5月は新外国人ガルベスの好投と、途中加入で、お化けフォークを武器とした抑えのマリオの活躍もあって16勝9敗で借金を完済し、貯金2で3位浮上。この時点では、首位中日とのゲーム差は3だった。

　しかし、6月に急落。6月1日に首位に立った広島が走り、7月6日には広島との差は11.5ゲーム差となった(4位)。もはや絶望的ともいえる大差だ。さすがの長嶋監督も「きょうは何もありません。お好きなように書いてください」と肩を落としたという。

　3日後の9日、首位広島との直接対決が札幌円山球場で行われた。この試合で巨人打線は2回裏二死から怒とうの9連続安打7得点。エースの斎藤雅樹が5回までに6失点KOとなり、10対8で辛うじて逃げ切った試合だったが、のちに、「ここがメークドラマの起点だった」と振り返る選手、関係者は多い。

　7月14日、松井秀喜が20号。16日の中日戦(東京ドーム)を前に、長嶋監督は報道陣へ「松井が40本を打てばメークドラマが実現します」と言った。この時点で巨人は3位、首位には7ゲーム差だったが、以後、予言どおり、松井がホームランを打った試合の“不敗神話”が・・・