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MLBの年金制度を読み取る

「世界最強」のメジャー式年金。その真実を探る

 

メジャーで10年プレーすれば高額な年金が支払われるという話はよく聞く。だがその詳しい内容には、さまざまな説がある。実際に24ページにわたるMLBの年金ガイドブックは難解な部分も多く、正確に世間に知れ渡っていると言い難いのも事実。ここではMLBの年金の歴史をたどりつつ、MLB年金のガイドブックに即して、なるべく正しい情報を解説する。
文=奥田秀樹、写真=Getty Images、1ドル=110円換算

昨季の世界一ナショナルズ


選手会がオーナーと激しい闘争で勝ち取る


 MLBなどアメリカの人気プロスポーツリーグでプレーする選手は、普通の人が一生かかっても稼げない額を1年で手にすると言われる。しかし引退から5年も経たないうちに破産するケースが少なくない。

 仮に年俸が500万ドルだったとしても、税金を引き、代理人フィーを払えば、半分以下。それでも生活が派手になり、お金が出るのも早い。投資で失敗するケースもある。平均の選手寿命はNBAで4.8年、MLBで5.6年、NFLで3.5年、高額のサラリーをもらえる期間も限られている。だから老後の生活を支える年金は元メジャー・リーガーといえどもとても大切になっている。

 遡って1965年、MLB選手の平均年俸がわずか1万9000ドルだったころ、どうにかしてほしいと選手が一番に訴えていたのが年金だった。戦後間もない47年4月に始まった制度はMLBで5年プレーすれば受給資格が得られたが、財源不足であっという間に債務超過。53年、選手会を設立、オーナーたちに顔が利く弁護士や元判事を雇い、年金制度の改善を目指したが、うまくいかない。60年代になると一人ひとりの選手が年に344ドルを積み立てると同時に、オールスターゲームのチケット売上、オールスター&ワールド・シリーズの放送権の40%を回してもらうなど、年に160万ドルを基金に蓄えられるようになった。

 だがそれでも不十分。当時テレビ放映権料は劇的に値上がりしていたが、オーナーたちがその儲けを基金に取られるのが嫌で、額をごまかしているとも噂された。機構側に丸め込まれることなく、真っ向から戦うタフな交渉人が必要不可欠。そこで66年、全米鉄鋼労連などで辣腕(らつわん)を振るったマービン・ミラーを専務理事に招いている。

 ミラーは交渉の過程で、機構側が年金基金から16万7440ドルを勝手に引き出し、オーナーたちに再分配していたことを知り、法律違反だと批判。弱みを握り要求を通し・・・

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