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高校野球 地方大会 SIDE STORY 熱きそれぞれの思い

地方大会名勝負列伝 ドラマは“途上”にあり

 

夏の甲子園の全国49代表が決まるまでに、地方大会で数多くの試合が行われる。ゆえに、とんでもないドラマが生まれる可能性は高い。地方大会名勝負列伝。晴れ舞台にたどり着く“途上”にドラマは存在する。
文=楊順行 写真=BBM

ライバルの東北高を決勝再試合で破った06年の仙台育英高。エース・佐藤由規を軸に甲子園では初戦突破も2回戦で日大山形高に敗れた


石川大会名勝負 2014年 星稜高×小松大谷高


『必笑』を実践して

 野球は最後まで分からない、とは言うが、たいがいは分かる。まして、9回裏の攻撃を迎えるところで0対8と、大量リードされていれば99%、負けだ。ところが……100試合に1回くらい、本当に最後まで分からないことがあるものだ。

 2014年、石川大会決勝。小松大谷高は序盤、星稜高の先発・岩下大輝(現ロッテ)をとらえて2回までで6得点。以後も中盤に加点し、守っては山下亜文(元巨人ほか)が星稜打線を8回まで2安打無失点と完全に勝ちパターンだ。29年ぶりの夏の甲子園まで、あとアウト3人。だが、最後の攻撃を迎える星稜高に、暗さはない。いい意味で開き直り、9回先頭の二番・村中健哉は、打席で笑みさえ浮かべていた。

 このときの、星稜高のチームスローガンは『必笑(ひっしょう)』。最後に、それを実践していたわけだ。9回に再登板した岩下が、三者三振で切り抜けたリズムの良さもあっただろう。すると、この村中の四球を皮切りに今村春輝が適時三塁打、村上千馬もタイムリーで2対8となる。実は前の回から足がつっていた山下。続く佐竹海音のカウントが1-1になったところで降板を申し出た。

 エースは降りても、6点リード。魔物は、いないだろう。いや、いたのか。佐竹は、代わった木村幸四郎に三振するが、捕手が後逸して振り逃げ、無死二、三塁。ここから梁瀬彪慶の2点適時打、岩下の2点本塁打で無死のまま6対8まで追い上げ、一死一、三塁から村中の内野ゴロで7対8。四球のあとの二死一、二塁からは村上が初球を同点適時打にし、最後は佐竹の左越え打でサヨナラ勝ち……。劇画でも出来過ぎのような結末だった。

 以来、星稜高・林和成監督(当時)は、どんなに劣勢の試合展開でも、「面白いことになってきたぞ」と、逆境でのナインの力を楽しむようになる。この話には続きがあって、両チームは翌年の石川大会でも、準々決勝で対戦した。今度は逆に、9回の守りを迎えるまで、星稜高が3対0とリード。だが小松大谷高は、二塁打から四死球などで無死満塁とし、連打で一挙に同点。最後は四番・西田将大の犠飛で・・・

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