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SPECIAL REPORT 去り行く指揮官 虎に残したもの

阪神・矢野燿大監督 「誰かを喜ばせるため」のチームへ 「楽しむってこと、あきらめないことも本当にチームに浸透してきている」

 

悲願に届かないまま、矢野燿大監督が指揮を執る最後のレギュラーシーズンは幕を閉じた。キャンプイン前日の1月31日に今季限りで退任すると表明して異例の形で挑んだが、開幕から大きくつまずいてしまい、やっとの思いで3位まで巻き返した。2019年の就任から3位、2位、2位、3位と歩み、常にAクラスに食い込んだ一方で、勝ち切れない悔しさばかりを味わった4年間でもあった。
文責=編集部 写真=BBM

2019〜22年[監督成績] 274勝248敗27分 勝率.525

4年間すべてAクラスだが勝ち抜けなかった。それでも選手たちの成長を信じ、促してきた。その成果は退任後に花開くことを信じている


失敗を恐れないチームに


 17年連続V逸という数字を残したまま去る事実は、確かに重たい。ただ、矢野燿大監督だから残せた「伝統」がチームに息づいていることも、否定されることのない事実だ。

 二軍監督だった2018年から、一軍監督に就任した19年以降も、常に選手と同じ目線に立ち、野球界の先輩としてだけでなく、人と人として向き合ってきた。何度も繰り返してきた「俺たちの野球」は、堂々と胸を張れるものになった。

「心技体、いろいろあるけど俺はやっぱりメンタル(だと思う)。心の部分をやっていくことで今も良くなるし、これからもみんなが、よりよい野球人生だったり(野球を)やめたあとにもつながると信じて、ずっと伝えてきたんで。そういうのは本当にチームに浸透してきていると思うし、楽しむってこともそうだし、あきらめないこともそう」

 どんなときも全力で、失敗を恐れずに挑み続ける姿勢を、チーム全体に求めてきた。19年には大山悠輔が、内野ゴロの際の一走で二塁へのスライディングを怠ったことがあった。試合後、指揮官は公然と「ファンに失礼。論外」と厳しい言葉を突き付けた。大山はそこから一層、全力プレーを信条とするようになり、今では凡フライでも全力疾走することが代名詞の選手となった。

 全瞬間、全身で矢野野球を体現する大山を見てきたから、21年に入団した佐藤輝明も、自然に指揮官の考えを受け入れていった。大物ルーキーらしくのびのびプレーする面もあったが、それでも矢野監督は言うべきことは言った。守備で佐藤輝があきらめたような動きを見せれば、試合後に「あれがお前の全力プレーか?」と問うた。

 攻めた結果は失敗でもとがめない代わりに、攻める姿勢は常に誰にでも求めた。いつまでも指揮を執れるわけがないと意識し続けていたから「俺自身、4年間『いい伝統を作りたい』という大きなビジョンを持ちながらやってきた」とも語ってきた。そんなチームこそがファンに愛され、子どもたちからも目標とされるんだと信じ続けた。「当たり前のレベルを上げよう」とも説き続け、いつしかベンチ内で選手同士が「おい、走り切れよ!」と言い合うようなチームになった。

 今季も・・・

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