これまでに何度、問われてきたことか。160キロ台のストレートを投じるたびそのスピードに対しての質問を受けてきた。冷静に答え続けてきた右腕だが、変化が見え始めたのは昨季からだ。自らの最大の武器だからこそ、意識したことがある。“令和の怪物”が求める至極のストレート──。根底にあるものは、いつも同じだ。 取材・文=鶴田成秀 写真=高原由佳 
3月4日、中日とのWBC強化試合[バンテリン]で、自己最速を更新し、日本人最速タイとなる165キロをマークも、目を向けるべきは“1球”だけではない
思考力と消耗率
熱を帯びる周囲をよそに、いつだって冷静だった。最速についての考えがすべてを物語る。
「最速は記録的な感じに過ぎないので」
高校生最速と言われる163キロを計測した大船渡高3年時。いつしか“令和の怪物”と呼ばれ、スピードに注目が集まるようになるも、本人の視線の先に数字はない。では、驚異のスピードは、いかにして成長を遂げてきたのか。根底を探れば、いつも同じ答えにたどり着く。
3年前の2020年、1年目の新人自主トレでのこと。理想の投手像を問うと返ってきたのは「まだ見えません」。同年は異例の開幕から一軍帯同で、実戦登板はなし。ルーキーイヤーは体づくりに励み、ブルペンではフォークの握りを試行錯誤するなど理想を模索し続けた。のちに「投げて初めてピッチャーと言えますし。投げたくない人はいないと思う」と1年目を振り返る中で「自分を知ることを大事にしていました」とも口にしていた。長い手足に体の柔軟性。自らの武器を再確認し、目を向けたのは“消耗率”だった。
「消耗率が下がれば、長いイニングを投げられるはず。どうしてもトレーニングとなると、(体の)耐久性に目がいきがちなんですけど、消耗率を下げないと、どんなに体の強さや耐久性があっても生きてこないのかなって。例えば、『100』の耐久性があっても、1球投げるのに、『10』を使ったら10球しか投げられない。でも、『1』ずつの消耗だったら100球を投げられるわけじゃないですか。体の強さ、耐久性と消耗のバランスをうまく取って、両立していきたいんです」
投げ続けることは、すなわちマウンドに立ち続けることだが、球速への意識にも共通点がある。「まだ見えない」と言っていた理想の投手像に「方向性は見えてきました」と明かしたのは、プロ2年目、実戦デビュー前の21年3月のことだ。
「目指すところは正直・・・
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