週刊ベースボールONLINE

第94回都市対抗野球大会展望 東京ドームで熱戦展開!!

<TEAM CLOSE UP>ヤマハ(5年連続44回目・浜松市/東海第2代表) 33年ぶりの「新たな景色」へ【前編】

 

過去3度の都市対抗制覇。最後に黒獅子旗を手にしたのは1990年である。東海地区の名門は5年連続の大舞台へ、万全の準備を進めている。
取材・文=杉園昌之 写真=矢野寿明
【後編】はこちら

狙うは33年ぶり、令和初の都市対抗制覇だ[写真提供=ヤマハ野球部]


 6月下旬の梅雨晴れの朝。天竜川の大きな堤防のほとりにある磐田市豊岡球場は、活気にあふれていた。ヤマハは5年連続出場の都市対抗に向け、ち密な戦術の確認に余念がない。今シーズンは伝統として引き継がれる強力打線だけではなく、足と小技を絡めた攻撃にも力を入れている。就任6年目の室田信正監督(名城大)は、スローガン『覚悟〜新たな景色へ〜』の言葉を噛み締める。

「2年連続で都市対抗は、思うように点を取れずに初戦敗退(21年は0点、22年は1点)。大事なところで点が入らずに結果が出ていないなか、『覚悟』を決めて、何かを変えないといけないと思いました」

2023年のスローガンは「覚悟〜新たな景色へ〜」[写真提供=ヤマハ野球部]


 指揮官はコーチ陣の刷新を決断した。ヤマハ打線の土台を築いた元ヤクルト・佐藤二朗コーチが勇退し、今季からは嶋岡孝太コーチ(立命大)に任せている。新任の申原直樹コーチ(中大)は、主に新人の採用を担う。新たな体制で、オープン戦から接戦を制することを意識してきた。

「今年は競り勝っていこうと選手に話しています。昨年まであまり見られなかったバントや盗塁も使えるようにと。都市対抗を見据え、大差にならない前提で練習してきました」

就任6年目の室田監督は一つひとつ丁寧にチームづくりを進めてきた。今大会の手応えは十分


タイブレークで無類の強さ


 打力強化の成果は、都市対抗東海地区二次予選で早速、結果として表れている。西濃運輸との第1代表決定トーナメント準決勝では1対1のまま9回を終えた。タイブレークとなった10回表を守護神・波多野陽介(東北福祉大)がゼロに抑えると、その裏、二死一、二塁から網谷圭将(千葉英和高)がサヨナラ打。トヨタ自動車との第1代表決定戦を落として、中1日で迎えた王子との第2代表決定戦も5対5でタイブレークへ。9回から救援した波多野が10回表を無失点に抑え、その裏、一死満塁から永濱晃汰(東北福祉大)のサヨナラ犠飛で、東京ドーム切符をつかんだ。立役者となった永濱は、打線のカギを握る一人。室田監督は勝負どころの働きに、目を細める。

「後ろの打順で彼が打つと、一番の秋利雄佑(カリフォルニア州立大)につながり、点になることが多いんです。『表のキーマン』は三番の矢幡勇人(専大)、四番の網谷になるのですが、『裏のキーマン』は永濱です」

 競り負けなくなってきたチームの変化は、主将・川邉健司(明大)も感じていた。全体を見渡す入社12年目、33歳のベテラン捕手は、成長しているのは攻撃だけではないと言う。

「接戦ではバッテリーを中心とした守備も大事。今季は緊張感の続く試合でも、最後まで粘り強く守れるようになってきたと思います」

 二次予選で先発マスクをかぶったのは、入社4年目の大本拓海(立命大)。経験豊富な川邉は主に終盤から出場し、試合を締める役割を託されてきた。タイブレークとなった2試合でも、冷静沈着にリードした。

「周囲からはしんどい場面だったと言われますが、難しいことは考えずにシンプルにアウトを一つずつ取っていくだけです。誰がマスクをかぶっても、チーム力が落ちてはいけない」

 場数を踏んでいるベテランの力は、いまもチームの貴重な戦力となっている。世代交代の波を感じながらも、若手に簡単に負けるつもりはない。

「僕が一番だという自負はあります。社会人野球では年長者扱いをされますが、プロを見れば、一線で活躍している選手が何人もいますから」

入社12年目の川邉主将は長年、ヤマハの本塁を死守してきた


左腕エースへの信頼揺るがず


 鬼門となる都市対抗初戦(対日本製鉄鹿島)にも気負わずに臨むつもりだ。ロースコアの展開になることを想定し、周囲にも目を配っている。

「ウチの投手陣もそこに向けて調整してくれています」(川邉)

 昨年、初めて都市対抗の先発マウンドに上がった主戦・佐藤廉(共栄大)は、失意に暮れたNTT東日本との1回戦の1球を忘れたことはない。1点リードの7回に逆転2ランを浴びて、チームは1対2で敗退。

「僕の失投でした。外角に投げるはずの真っすぐが中に入り、高めに行ってしまって……」

 7月21日の動画はスマートフォンに保存し、いまも練習や試合で心身が苦しくなると、見返している。

「忘れてはいけない記憶なので」

 今季は悔しさを糧に集中力を切らさずに投げることを意識し、終盤に打たれる回数が減った。むしろ、イニングを重ねるごとに気持ちを引き締めている。室田監督の信頼は揺るがず、佐藤も大黒柱の自覚を持つ。

「期待は絶対に裏切りたくない。初戦に登板できれば、完封したいです」

左腕エース・佐藤は昨年のリベンジに燃えている


 足元を見つめるチームはまず、第一関門突破に全力を注ぐ。通算44回の出場回数を誇り、3度の優勝を経験。名門の矜持は持っているが、室田監督は謙虚な姿勢を崩さない。

「大きなことは言えないですが、『新たな景色』を見るために全試合、競ってでも勝っていきたいです」

 1990年以来の黒獅子旗奪取へ。一戦一戦に集中力を研ぎ澄ませていく。

一球にかける執念。練習のための練習ではなく、試合のための練習が常に展開されている


TEAM DATA
ヤマハ野球部
●所在地/静岡県浜松市
●創部/1958(昭和33)年
●都市対抗実績/出場43回、優勝3度(1972、87、90年)
●日本選手権実績/出場26回、優勝1度(2016年)
●部長/杉山俊道
●監督/室田信正
●コーチ/長谷川雄一、申原直樹、嶋岡孝太、フェリペ・ナテル(兼投手)
●マネジャー/伊藤直輝
●トレーナー/中津川貴紀、吉村康平
●アナライザー/辻本一磨

【東海地区二次予選結果】
▼第1代表決定トーナメント
1回戦 14(7)0三重高虎B.C
2回戦 8-3日本製鉄東海REX
準決勝 2(10)1西濃運輸
代表決定戦 4-7トヨタ自動車

▼第2代表決定トーナメント
代表決定戦 (10)5王子
※()数字はコールド、延長回数
特集記事

特集記事

著名選手から知る人ぞ知る選手まで多様なラインナップでお届けするインビューや対談、掘り下げ記事。

関連情報

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング