ガッツポーズが飛び出すたびに沸き上がる大きな歓声。わずかばかりのため息は、ものの見事にかき消された。4年ぶりに有観客で行われた2023年のドラフト会議。緊張感が張り詰める会場は、例年以上に熱を帯びていた。 写真=桜井ひとし 16時52分に会場が暗転すると、「12球団入場です」のアナウンスが流れ、温かな拍手が場内に響き渡る。実に4年ぶりに観客を迎え入れてのドラフトは、抽選による無料観覧を取りやめて全席指定の有料席が設けられるという初の試みが導入され、かつてと変わらぬ、いやそれ以上の熱が会場にもたらされていた。
1位入札のアナウンスから選手の名前が呼び上げられるまでの、会場全体が固かた唾ずをのんで独特の緊張が高まっていく空気感、
度会隆輝(ENEOS)に3球団目となる
ロッテが指名した瞬間の歓声、
オリックスが
横山聖哉(上田西高)を一本釣りしたときの大きなどよめき、
DeNA・
三浦大輔監督が最初の抽選で度会の当たりクジを引き当てて右手を高々と突き上げたときの熱狂――。
クジを引く側もその熱に乗せられていったのではないか。
西舘勇陽(中大)の交渉権を巡って抽選箱の前に立った
日本ハム・
新庄剛志監督のパフォーマンスもファンあってのものだ。時間をかけてクジをつかみ、胸に当てたまま「開けてください」のアナウンスがあっても微動だにせず、隣で
巨人・
阿部慎之助監督がガッツポーズを見せると天を仰ぎ、足早に降壇する。
広島・
新井貴浩監督が
常廣羽也斗(青学大)の当たりクジを引いて「ヨシッ!」とこの日一番の声を張り上げてガッツポーズを見せたのも、会場の熱気に後押しされたからだろう。
各球団の思惑が交錯し、史上最多7度の抽選というクジ引き合戦となった展開の妙と、観客の熱が絡まり合った。指名される選手にとっては野球人生の岐路。それを面白がってばかりはいられないのだが、やはり観客が会場に詰めかけたドラフトで繰り広げられる抽選の連続は、華がある。そのことを再確認できた。
20時30分に全12球団の育成指名が終了。これで2023年のドラフト会議は幕を閉じた。本指名で72人、育成指名で50人の合計122人がプロ入りへのスタートラインに立った。
「豊作」と言われた大学生投手は8人が1位指名を受けた。うち7人は東都大学連盟所属。同一大学連盟の1位指名は4人が過去最多、大幅更新となった。連続記録では明大の
上田希由翔がロッテから1位指名を受け、同校からの指名は14年連続に。同一チームからの連続指名の最長記録をまた1年更新している。
そして、今ドラフトを席巻したと言えるのが独立リーグだ。本指名では2位2人を含む6人、育成指名を合わせ23人が吉報を受けた。これは2015年の12人を大きく超える史上最多である。
1位指名公表が4球団のみ(22年は9球団)という、ファンにとっては当日の楽しみが大きかった今年の「運命の1日」。これから先はグラウンドでファンを熱狂させる姿を見せてくれるはずだ。